ピッチで泳ぐ派 VS ストローク長い派。あなたはどっち?

水泳選手の泳ぎのパターンは2つ。

まずは、ピッチを上げてテンポよく泳ぐタイプ(ピッチで泳ぐ派)。もう一つはしっかり水をかくタイプ(ストローク長い派)である。

ピッチを上げれば、1かきで進む距離は縮まる。逆に、一かきで進む距離が延びるとピッチは落ちてしまう。つまり、互いにメリットとデメリットは隣りあわせだということだ。

さて、あなたはどっちタイプ?

 ということで、面白いデータを紹介する。一緒にどっちのタイプが合っているのかを探っていこう!

1.パラ選手はピッチ重視?それともストロークを伸ばす?

先に結論から言うとこうだ。

上肢欠損(切断や奇形)の選手は、ピッチを重視すべし!!

弱視障害(S12,13)の選手は全目(S11)選手に比べ、ひとかきで進む長さが長いと泳ぐスピードも速い!!つまりストロークを伸ばすべし。

つまり、障害によってピッチ派かストローク派かは違う。

この答えは、2018年までのパラ水泳競技に関する研究をまとめた論文から分かったことである。

 もう少し説明すると、肘から下(手や手首など)がない選手はストロークを長くしようとするより、ピッチをがんがん上げるほうが速く泳ぐために重要だということである。

これはあくまでも100m以下の種目によるらしいが、確かに納得がいく。世界の上肢欠損トップ選手たちは、圧倒的に腕を回すスピードが速い。実際50mだと片腕を回す速度は0.4秒もかからない。健常選手ではありえない速さで腕を回すのだ。

なので現時点において、上肢欠損の選手にはピッチ派をおすすめできるだろう。しかし短距離に限る点は注意していただきたい。

 次に、弱視障害(S12,13)の選手はストローク重視であるとよいことが分かった。つまり、ストロークが長い選手の方が泳ぐ速度が速いということがすでに分かっている。

実は、健常選手も弱視障害の選手と同じような傾向にある。視覚障害の程度にもよるが、他の障害に比べ障害の影響は競技において受けにくいことも確かだ。つまり、健常選手に近い傾向があってもおかしくない。
弱視ゆえに水泳のやりにくさを感じることもあるだろうから、今後もしかしたら違った答えも見つかるかもしれないが。

ここからは健常選手の泳ぎに触れていきながら、弱視スイマーが速くなるためのストロークについて解説していこう。


2.健常選手はストロークを長くしよう

 皆さんは自身の泳ぎを速くしようと思ったときに、「腕をいっぱい回す」ことを実践していないだろうか?

ピッチを上げるということは必要不可欠なことだが、ピッチを上げるにも限界がある。そこで、ピッチは最低限維持しつつ、ストロークを伸ばしていく泳ぎをおすすめしている。

というのもピッチを上げるために腕の他、キックも力強く速く打つ必要が出てくる。その結果、泳ぐ速度が速くなったとしてもキックを下手に大きく打った場合、かなりの抵抗になってしまう。これは、キック動作の役割を検討した研究から明らかである。

 実はこの研究がきっかけで、水泳界で有名な「キックは打たない方がいい説」という、情報に偏った説が唱えられてしまった。


正しくは、「キックは速く泳ごうとすると抵抗になるけど、推進力にもなっているので良いフォームでキック打とうね」ということだ。

なので、腕の回転は保ちつつ、ストロークをいかに長くできるかが速くなるための最大のポイントだ。

ということで、抵抗を少なくできる水のかき方を探っていきましょう。それか水中動作(ドルフィンキックやスタート、ターン)の技術を磨くことも速くなるコツと言えるだろう。

 さてここで弱視スイマーに話を戻すと、弱視の選手は健常者と同様にストロークを伸ばすことが速くなるポイントとされている。視覚以外の腕や脚は健常なため、健常者の研究が応用できるからだ。

そこで、ストロークを伸ばすことが大切となる。しかし、自分の得意なレース展開と短距離か長距離かを踏まえたうえでぜひ考えてほしい。

まず、自身の100mのレース展開を思い浮かべてほしい。前半突っ込んで、後半は耐えるパターンになのか、前半は楽に入って後半追い上げ型か。ここで分かっていることとして、ピッチ派の選手はだいたい前半突っ込む傾向がある。そして、ストローク派の選手は前後半のタイム差が少ない。

ということは、ピッチ派で泳いでいる選手は、前半ピッチを上げすぎずに楽に速く入る練習が必要となる。逆にストローク派は、ピッチが遅すぎないか見直し、さらにストロークを長くする練習が求められる。

 次に短距離か長距離選手かで大きくストロークの伸ばし方は変わる。

短距離選手の場合は、どうしてもピッチは落とせない。そこでキャッチのポイントでいかに早く水をつかめるかが重要だと言われている。泡をつかまず、入水のタイミングで推進力を得るテクニックを磨こう。

長距離選手は、手を水中で伸ばす時になるべく体は水平を保つこと。そして、水をかく時に肘を立てつつ浅くかくことをおすすめしている。

ぜひ練習に活かしてもらえたらと思う。

3.まとめ:ピッチ泳法 vs ストローク泳法

今回は「ピッチ派」か「ストローク派」かどちらがいいのかについて考えてみた。結論

『 パラ選手はまだまだ分からないことが多いので自分で探ろう。健常選手はストローク長を伸ばすことを意識しよう。

ということだ。

にしてもこれまで研究で明らかになったことが少なすぎる!!限られた障害の選手のことしかまだ解明されていない。まだまだパラ水泳は謎が多い競技であり、今後さらなる伸びしろが期待できそうだ。

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編集長


*************参考文献*************
🔶Wellington G. Feitosa, Ricardo de Assis Correia, Tiago M. Barbosa & Flávio A. de Souza Castro(2018)Performance of disabled swimmers in protocols or tests and competitions: a systematic review and meta-analysis, 
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14763141.2019.1654536?src=recsys

🔶クロールのバタ足、速くなる効果なし むしろ水の抵抗増,
https://www.asahi.com/articles/ASL732TJ1L73ULBJ002.html

🔶クロール泳中のスイマーに働く抵抗に関する新たな知見, 
https://www.titech.ac.jp/news/2018/041861.html

🔶成田 健造, 中島 求, 仙石 泰雄, 本間 三和子, 椿本 昇三, 高木 英樹(2018)多段階の泳速度におけるクロール泳中の自己推進時抵抗とストリームライン姿勢中の受動抵抗の比較, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/63/2/63_17051/_article/-char/ja/

🔶松田 有司, 山田 陽介, 赤井 聡文, 生田 泰志, 野村 照夫, 小田 伸午(2010)100m自由形におけるストローク頻度とストローク長からみた泳タイプ分類, 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/59/5/59_5_465/_article/-char/ja/

🔶松田, 有司(2015)クロール泳におけるストロークおよびキック動作のバイオメカニクス分析, 
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/200510




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