シナリオ「改造」

  ○国道(夜)
   【T・PM23:24】
   国道沿いに並ぶ飲食店(ファミリー向けのレストランや牛丼屋)、す
   べての店が真っ暗。周囲に住宅はなく、飲食店以外は自動車工場と
   林である。
   辺りを照らすのは、街灯と信号機の光だけ。車の通りはない。
   国道の十字路に、1軒だけ店内照明がついているファミレスがある。
   店内には、防護服を着た3人の人間がいて、店内を消毒している。

○ファミレスの駐車場(夜)
   【T・AM2:37】
   店の駐車場。清掃道具が荷台に乗せられている。隣の車止めに座り、
   煙草を吸う三木泰山(24)。山本和臣(26)はマスクをしてスマホを
   見ている。
   三木も山本も、防護服のフードを外し、顔を出している。
   三木、空に向かって煙を吐きながら、
三木「はぁ」
山本「(スマホを見ながら)溜息やめろ」
三木「はぁ」
山本「このご時世、仕事があるのはありがたいことなんだぞ」
三木「はぁ」
山本「社長命令だ」
三木「あぁ、うんこしてぇ」
   梅原五郎(26)、店のバックヤードから出てくる。梅原は防護服のフ
   ードを外して顔を出し、マスクをしている。
梅原「オミやーん。終わったよ」
山本「外じゃ社長って呼べよ。何度言やわかんだ」
梅原「ごめん」
   梅原、三木と山本の前までくると立ち止まる。
山本「ったく」
三木「あぁ、うんこしてぇ」
山本「勝手にしろ。そこら(林の方指さし)でしてこい」
三木「やだ。チンコ、蚊に刺される」
山本「皮かむってっから大丈夫だろ」
三木「改造チンコよりはマシだ」
梅原「なんか、腹減ったね」
山本「(自分の股をつかみ)俺は、改造して最強になった」
三木「使うとこねぇだろ」
山本「あるよ。お前が知らねえだけだ」
三木「美玖さんにチクるぞ」
山本「そんなことしたらクビだぞ」
梅原「(ちょっと大きな声で)腹減ったね」
   三木と山本、止まる。山本、梅原を見て、
山本「どこで食うんだよ。この状況で」
梅原「コンビニやってんじゃん」
山本「帰んだよ」
三木「改造チンコ使うんか」
山本「うるせぇ。羨ましいか」
三木「ただキモい」
山本「皮かむりより良いわ」
   山本、三木の頭をはたく。
   三木、山本に向かってタバコを放り投げる。
山本「わっ、あぶね。人殺し。人殺しだこいつ」
   山本、梅原に駆け寄ろうとする。梅原、逃げだし、
梅原「わー。ソーシャルディスタンス、ソーシャルディスタンス」

○有限会社・山本。1階の駐車場(夜)
   【T・AM3:09】
   有限会社・山本の1階・駐車場。山本の運転する車が停まっている。
   防護服を脱ぎ、清掃道具を片付けている三木、山本、梅原。
   有限会社山本は3階建てのビルで、3階が家屋、2階が会社になっ
   ている。
   梅原が運んでいた道具の一つが落ち、ガシャンと音を立てる。
山本「おい」
梅原「ごめーん」
   駐車場におりる階段を、山本美玖(26)、寝ている山本一(1)を抱
   いておりてくる。
美玖「うるせぇよ」
山本「すまん。お、はじめちゃーん」
   山本、美玖の抱いている一に近づいていく。
   美玖、一を抱いて背中を向けると、
美玖「死ね。やっと寝たんだよ」
山本「チェッ。いいじゃねぇかよ」
美玖「それ以上、近づいたら殺す」
   三木、美玖のパジャマ姿の背中をじっと見ている。
   梅原、三木の両目の前で手を振る。梅原、いたずらっぽい顔で三木
   を見ている。
   三木、舌打ちをして顔をそらす。
美玖、一転して笑顔になって三木と梅原の方を見ると、
美玖「ウメちゃんとタイザン君、なんか食べてく?」
梅原「え?いいの」
美玖「私の手料理だけど」
梅原「やったぁ。腹減ってたんだぁ」
美玖「うん。タイザン君は」
三木「俺は、いらね」
美玖「いいの?」
三木「うんこしてぇし」
美玖「してけばいいじゃん。ウチで」
三木「自分んとこじゃねぇと落ちつかねぇの」
美玖「ふーん(一、美玖の腕の中で泣き出す)あ、起きちゃった。あー、ごめんごめん」
   美玖、階段をあがっていく。
山本「おい。あがれよ」
   山本も階段をあがっていく。
   梅原、三木を見て、
梅原「いこうよ。タイちゃん」
三木「いかねぇっての」
梅原「なんで?腹減ってないの?」
三木「減ってねぇ」
   三木の腹がぐーっと鳴る。
梅原「ほらぁ」
三木「うるせぇよ」
梅原、ニヤニヤしながら三木を見ている。
三木「帰る」
梅原「タイちゃん」
   梅原、三木に近づいていこうとする。
   三木、梅原に向かってわざとらしく咳をする。
梅原「うわぁ」
   梅原、飛びのいてよける。
三木「みんな死んじまえ」
   三木、駐車場を飛び出していく。

○公園・園内(明方)
   【T・AM4:02】
   近所の公園のベンチに座る三木。グーグーと腹が鳴っている。
   美玖の姿を思い出す。
   美玖の背中、笑顔。
   三木、明け染めている空を見上げながら、
三木「俺も、改造しよっかな」
   遠くで犬が鳴きはじめる。


#2000字のドラマ

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