シナリオ（１０分ドラマ）　タイトル「純真の表裏」

≪登場人物≫
木村愛（29）　　　　モデル
久世成孝（46）　　　木田建設の社員

≪あらすじ≫
　売れないタレントの愛は、食べていくためにTwitterでウソのセレブ生活を演出し、引っかかった男たちから金を巻き上げていた。
　久世は、そんな愛に引っかかり、会社の金にまで手を出すことになる。

≪シナリオ本文≫
○撮影スタジオ・室内
　　　水着姿の若い女性たちが、椅子に並んで座っている。
　　　原色の水着にハイヒール。みんな似たような髪型をしている。
　　　向かいには、中年の男たち。
　　　男たちの話に、狂ったように大口を開けて笑う女性たち。
　　　木村愛（29）女性たちの中にいて、同じように笑っている。
男「じゃあ、次の人。はい、立って」
愛「はい」
　　　愛、立ちあがり男たちの前へ。
愛「木村愛、２２歳です」
男「ほんとかぁ？明らかに３０過ぎてるだろ」
　　　女性たち、嗤う。
　　　愛、笑顔を崩さずに立つ。
男「ボディラインがおばさん」
　　　男達、嗤い出す。女性たちも嗤う。
　　　愛、表情が固まったように笑顔を崩さない。

○公園・園内（夕方）
　　　繁華街の真ん中にある小さな公園。
　　　砂場の上にはたくさんの吸い殻や空き缶。
　　　愛、煙草を口にくわえ、ライターのスイッチを引くが、点かない。
　　　愛の顔にいら立ちが走り、ついには、ライターを地面に投げ捨てる。
　　　ベンチで寝ている浮浪者が、愛を驚いた顔で見る。
愛「見てんじゃねぇよ」
　　　愛、唾を吐いて公園を出ていく。

○愛の自宅・リビング（夜）
　　　部屋のほとんどはゴミだらけ。
　　　カップ麺やコンビニ弁当の容器。中にはかびが生えているものも。
　　　愛、煙草をくわえたまま足でゴミを蹴散らして、歩いていく。
　　　部屋の一部だけ綺麗。
　　　愛、そちら側に行き、スマホスタンドにスマホをセットする。

○愛のスマホ画面（夜）
　　　Youtubeのライブ配信。
　　　こぎれいな格好をした愛が手を振っている。
愛「みなさーん。こんばんはぁ」
　　　視聴者が３０名。だんだん人数が増えていく。
　　　コメント①『こんばんは』
　　　コメント②『こんばんは。今日も綺麗だぁ』
　　　など。

○木田建設の全景（夜）
　　　立派な４階建ての建物。
　　　２階の一部屋だけ明かりがついている。

○同・オフィスの中（夜）
　　　経理課の看板の下で、久世成孝（46）一人で働いている。
　　　並んでいるデスクの中で、久世のデスクだけ書類が山積み。
　　　久世、パソコンのキーボードを打つ手を止めてスマホを見る。
　　　愛、スマホに映っている。
　　　久世、音量をあげる。
愛の声「今晩もひとりで寂しいよぉ」
　　　久世、コメントを打ち込んでいく。
　　　アカウント名【寂しいたぬき】
　　　コメント『愛ちゃん。今夜も綺麗だよ』
　　　スーパーチャットで１万円課金。
　　　画面のコメント欄に、アカウント名と課金が大きく表示される。
愛の声「わーい。わーい。寂しいたぬきさん、どうもありがとう」
　　　久世、嬉しそうに笑う。
　　　久世のスマホにＬＩＮＥ通知。
　　　アカウント名【大貫金融】
　　　コメント『いつになったら金返すんだッ』
　　　すぐに次のＬＩＮＥ通知。
コメント『会社まで乗り込むぞ。コラ』
　　　久世の表情が固まる。
愛「寂しいたぬきさんは、いっつも愛を応援してくれてありがとう」
　　　愛の嬉しそうな表情。
　　　【大貫金融】
　　　『５秒以内に返信しろ』
　　　久世、震える手でスマホをとる。ＬＩＮＥを起動して返信。
　　　久世『すぐ、お返しします』
　　　＊以下、大貫金融と交互。
　　　『いつ？』
　　　『週末には』
　　　『とりあえず２０万で良い』
　　　『ご配慮ありがとうございます。』
　　　『いえいえ。とんでもない。俺は、いつもお前の味方だぜ』
　　　『ありがとうございます』
　　　『良い週末を』
愛の声「寂しいたぬきさーん。たぬきさんはどこぉ」
　　　久世、はっとなりスマホをyoutubeに戻す。
　　　久世、すぐコメントを打つ。
　　　『はい。ここにいますよ』
愛「いたぁ。良かった。愛が捨てられちゃったのかと思いました」
　　　久世、笑顔を浮かべてコメントを打つ。
　　　『２３歳の誕生日は何がほしいのかな？』
愛「えー。何もいらない。ほんとにいらない」
　　　久世、コメントを打つ。
『期待しててね』
愛「えー。ほんとにいらないよ。ほんと」
　　　×　　　×　　　×
　　　パソコン画面に請求書一覧のデータ。様々な会社からの請求書。
　　　久世、自分のスマホでia製紙店の請求書を作っている。
　　　久世、パソコン画面にia製紙店の請求書を入力。２０万円と入力。
　　　久世、金額をに０を一つ加える。２００万円。

○愛の自宅（夜）
　　　愛、スマホをスタンドから外す。
　　　愛のスマホにＬＩＮＥ通知。
　　　アカウント名『IQ207822』
　　　『AM2：00　新宿プラザワン』
　　　愛、無機質な目で画面を見る。
　　　一言、了解とだけ打ち返す。

○プラザワンホテルの全景（夜）
　　　愛、入っていく。

○同・７０３号室の前（夜）
　　　ドアが開く。サングラスをした老齢な男が立っている。
　　　愛、にっこりとする。
　　　男、じろじろと愛の体を見て、顎を室内にしゃくる。
　　　愛、貼りついた笑顔で室内へ入る。

○久世の会社・室内（夜）
　　　久世、愛の生配信をアーカイブで見ている。幸せそうな笑顔。
愛の声「愛は、誰ともお付き合いしたことがなくてぇ」

○ホテルの室内（夜）
　　　愛、老齢な男とセックスをしている。
愛の声「愛の純粋さは、みんなしかわかってくれないから」
　　　愛の喘ぎ声と配信の声が混じって混濁していく。

○久世の会社・室内（夜）
　　　久世、真剣な顔で画面を見ながら、
久世「愛ちゃん。今度は、車買ってあげるからね。待っててね」
　　　久世、嬉しそうに愛の映像を眺めている。
　　　久世以外のアカウントで、５０００円のスパチャがある。
　　　『愛ちゃーん。大好きぃ』
　　　久世の顔にいら立ちが走る。
　　　愛が嬉しそうに手をたたいている。
久世「くそっ。愛ちゃんは誰にもわたさんぞ」
　　　パソコン画面に映る請求書一覧のデータ。
　　　久世、パソコン画面を見る。その表情からは笑顔が消えている。
　　　久世の瞳に映る請求書金額の一覧。
　　　久世、スマホを取り、愛の映像を消すと請求書のアプリを起動する。