20枚シナリオ「いつまでも教え子」

【登場人物一覧表】

呉斎(76)(51)   元刑事

香取崔(47)(23)  刑事

井上将司(54)     警察署・署長

呉仁(51)       斎の息子

強盗犯の若い男

人質の若い女性

その他、刑事や署員たち

マスコミと野次馬

 
【本文】
〇コンビニエンスストア・全景

   入り口に突っ込む乗用車。書店棚が大きくひしゃげ、商品が散乱。

   数人の客が、車の下敷きになっている。

   店内にいる店員や客が、驚いて集まってくる。

 

〇突っ込んだ車・車内

   運転席に、呉斎(76)自分が、どうしてここにいるのかわかっていな 
   い顔。
   遠くからパトカーのサイレン。

 
〇警察署・署長室前の廊下

 

○同・室内

   井上将司(54)署長席に座り、腕を組んでうなっている。

   向かいに立つ香取崔(47)

井上「まずいことになったな」

香取「はい」

井上「上からは隠せ、と言われてる」

香取「やはり…そうですか」

井上「オマエ、一度、話してこいよ。俺の顔、憶えてないんだ呉さん」

 

〇同・廊下

   香取、緊張した面持ちで歩いている。

香取の声「おい。待て」

 

〇(回想)街角(夕方)

   T・「24年前」

   香取崔(23)ナイフを持った若い男

   を追いかけている。男、路地を曲がる。

 

○(回想)同・路地(夕方)

   男、若い女性を人質にとっている。

   香取、拳銃を構えるも足が震えて撃てない。

男「撃てるもんなら撃ってみろよ」

   香取の耳元で、銃声。

   男の肩に命中し、倒れる。男を取り押さえようとなだれ込む警官達。

   香取、振り返る。

   呉斎(51)拳銃を持って立っている。

   銃口から立ち上る煙。

香取「く、呉さん」

呉「バカヤロウ。ビビり屋に刑事が務まるか」

香取「で、でも」

呉「この街を守るのが俺たちの仕事だ。てめぇのことしか考えてねぇから足  が震えんだ」

香取「すいません。俺…」

   呉、大きく笑うと、しゃがみ込む香取

   を立ちあがらせ、

呉「自分と闘え。この街の未来は、おまえ達にかかってるんだ」

 

〇元の廊下

   香取、歩いている。

   

〇留置場の中

   呉、牢屋の中に座っている。

   目の前に朝食が置かれているが、壁を

   ぼんやりと眺めている。

香取「呉さん」

呉「…」

香取「お、俺です。香取です。呉さん」

   呉、香取の方を見る。

香取「(無理矢理笑う)呉さん。お元気でしたか?」

   呉、香取のことが誰だかわかっていない顔。

呉「今、何時かね?」

香取、腕時計を見て、

香取「今、今ですか?15時です。呉さん」

呉「そうか。そろそろ訓練場に行かんとな」

   香取、驚いた顔で呉を見る。

 

〇同・屋上(夕方)

   隅の方に喫煙場所がある。

   香取、ひとり煙草を吸っている。

   井上がやってくる。

井上「死人が出た。それも二人だ」

香取「え?」

 

○コンビニの店内(夕方)

   商品棚にこびり付いた人の血。

井上の声「若い母親と赤ん坊らしい。もう、マスコミは嗅ぎつけてる」

香取の声「ど、どうするんです?」

 

○警察署・屋上(夕方)

井上「上は、切るつもりだよ」

香取「そ、そんな。じゃあ呉さんは」

井上「…逮捕される」

香取「署長。待ってください」

井上「わかってる。わかってるよ。だけど、俺たちじゃ、もうどうしようもないところまできてるんだ」   

〇テレビ画面・ニュース映像(夜)

   コンビニに突っ込んだ車。

   現行犯逮捕【呉斎(76)(無職)】【元刑事】のテロップ。

 

〇警察署・留置場の中(夜)

   呉、寝ている。呉の顔。

 

〇呉の夢・射撃訓練場

   呉、腕組みをして若い刑事たちの射撃を見ている。

   ×   ×   ×

   呉の腕前に感嘆する刑事たち。その中に井上や香取の姿もある。

 

○元の留置場の中(夜)

呉(寝言)「腰を落とせ香取。腰を」

 

〇同・応接室(朝)

   困惑顔の井上と香取。

   向かいに座る呉仁(51)仁はスーツ姿。七三分け。銀縁の眼鏡。 神  
   経質そうに貧乏ゆすりをしている。

仁「だから、何度も施設に入れって言ったんだ俺は。最悪だよ。最悪の形だよ。これは」

井上「む、息子さん。落ち着いてください」

仁「(頭を抱えて)あぁ。もう。何やってんだよオヤジは」

   香取、拳を握り締める。

 

〇同・留置場(朝)  

   呉、食事をしている。

香取「く、呉さん」

   呉、顔をあげると目を輝かせ、

呉「おぉ。香取。おはよう」

香取「お、おはようございます」

呉「射撃訓練やるぞ」

香取「え?」

呉「俺がみっちり教えてやるからな」

香取「呉さん」

呉「井上も幸田も、みんな集めろ」

香取「…は、はい」

呉「自分と闘え。この街の未来は、おまえ達にかかってるんだ」

 

○(回想)路地のシーン

   呉の笑顔。

 

○元の留置場(朝)

   香取の目に涙があふれ、部屋を飛び出していく。

呉「おい香取。香取」

 

○警察署・駐車場

   護送車が近づいてくる。井上、香取や他の署員たちの前に立つ。

   みんな、井上に抗議している。

井上「仕方ないだろ。上からのお達しだ」

香取「し、しかし」

井上「絶対に駐車場からは出るな」

 

○同・警察暑の外

   大勢のマスコミや野次馬。

井上の声「いいか。一人でもカメラに映ったら、クビが飛ぶと思え」

 

○同・駐車場の中

香取「それが功労者へのやり方ですか」

井上「ただのボケた爺さんだ」

   しん、と静まり返る。

井上「そう。上が言ってるんだ。俺だって辛いんだよ。俺だって」

   井上の目に涙が浮かぶ。

   通路から、二人の警察官に挟まれて、

呉、手錠をされながら歩いてくる。

香取「く、呉さん」

   香取、呉に近づいていく。

   他の署員たちも、口々に名前を言いながら近づいていく。みんな、泣  
   いている。

呉「おぉ。香取。宮島。伊藤。あれ、由美ちゃんじゃないの。なんだ、みんなシケた面してんなぁ」

   呉、笑う。

   井上、少し離れたところで泣いている。

呉「井上。井上」

   井上、顔をあげる。

呉「今日は、みっちり訓練してやるから、そのつもりでいろ」

井上「呉さん」

呉「自分と闘え。この街の未来は、おまえ達にかかってるんだ」

   井上の目から涙があふれる。

   呉、警察官に誘導されるまま、護送車に乗り込む。

   ×   ×   ×

   走り去る護送車。

   香取たち、入口まで駆けていくも、足が止まってしまう。

香取「ちきしょう…ちきしょう」

   香取、自分の足を何度も何度も殴る。

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