記憶のかけら
序章:消せない記憶
アヤは、自分の言葉がもとで人を傷つけることを何よりも恐れていた。特に記憶違いで間違ったことを言ってしまったとき、その罪悪感が彼女を苦しめた。小さな間違いも彼女の心には大きな影を落とし、「あの時こう言わなければ」「あの場にいなければ」と、記憶を消したいという衝動に駆られる日々だった。
そんなある日、アヤは友人のリナと何気ない会話をしている中で、リナの趣味について記憶違いの発言をしてしまう。「リナって、登山が好きだったよね?」と軽く聞いた言葉に、リナは一瞬表情を曇らせた。実際はリナが以前、登山中に大けがをして、それ以来山には近づかないようにしていたというのだ。
「あ、ごめん!記憶違いだった!」とすぐに謝ったものの、リナの寂しそうな顔が頭から離れない。アヤはその日から、リナとの距離を感じるようになった。
第1章:記憶の森
アヤは夜になると布団の中でその出来事を思い出し、「あの発言を消せたらどんなにいいだろう」と願った。そんなある夜、不思議な夢を見た。夢の中で、彼女は「記憶の森」と呼ばれる場所に迷い込んだ。そこには巨大な木々があり、それぞれの枝には小さな光の球がぶら下がっていた。
「ここは君の記憶が宿る森だよ。」
突然現れたのは白いフクロウだった。そのフクロウは静かに語りかけてくる。「君が消したいと思う記憶も、この森のどこかにある。だが、記憶を消すことには代償が伴う。それでも試してみたいかい?」
アヤは迷いながらも頷いた。するとフクロウは彼女をある木の下に案内した。そこには、リナと話していたときの記憶の光が揺れていた。「これだね。消すことはできるけれど、この記憶が君に教えたことも失う。それでもいいのかい?」
第2章:記憶の意味
アヤはその言葉に戸惑った。「この記憶が私に教えたこと?」と尋ねると、フクロウは優しく答えた。「記憶の中には学びが隠れている。もしこの記憶を消したら、リナとの距離をどうやって埋めるか、次にどう話せばいいかを考える機会も失うだろう。それは本当に君にとって良いことかな?」
アヤは悩んだが、その記憶が消えた後の未来を想像した。もし記憶を失えば、リナにもう一度向き合う勇気も失ってしまうかもしれない。
「……やっぱり、この記憶は残しておく。」アヤはそう決心し、記憶の光をそっと握りしめた。
第3章:新しい一歩
目が覚めたアヤは、心の中に少しの清々しさを感じていた。その日、彼女はリナに連絡をした。「この前は本当にごめんね。リナの気持ちを考えずに言ってしまった。」
リナは少し驚いたようだったが、次第に微笑み、「気にしてないよ」と言ってくれた。むしろその会話をきっかけに、アヤはリナともっと深い話をするようになり、お互いのことをより理解できるようになった。
終章:記憶は成長の種
それからというもの、アヤは自分の記憶に対する考え方を少しずつ変えていった。たとえ間違いや失敗があっても、それを消すのではなく、そこから何かを学ぶ機会にしようと心がけた。そして記憶の森が心の中に広がり、そこに生まれる新しい光を楽しみにするようになった。
アヤは知ったのだ。消したいと思う記憶も、自分を成長させる大切な一部だということを。
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