200メートルの約束 〜パニックを超えた先に〜

序章:閉ざされた世界

その距離は、たった200メートル。

家の前の道をまっすぐ進み、大通りを渡り、小さな公園へ。子どもなら駆け足で1分、大人なら3分もあれば着ける距離。

けれど、当時の私には、その200メートルが果てしなく遠く感じた。まるで見えない壁が立ちはだかり、一歩踏み出すだけで全身が恐怖に支配される。呼吸が乱れ、心臓がバクバクと鳴り響き、足がすくむ。

「ママ、公園行こう!」

幼い娘が無邪気に手を伸ばす。その小さな手を握ることができなかった。手を伸ばせば、身体が動かなくなる。娘を悲しませたくないのに、どうしても足が前に出ない。

心の中で何度も叫んだ。

——どうか、私を変えてください。

このままでは、娘の母親でいることすらできない。だから私は、あらゆる方法を試した。

転機:催眠と祈祷の果てに

心理学を学ぶ前の私は、あらゆる療法にすがった。

最初は催眠療法だった。催眠で心を落ち着かせれば、パニックも消えてなくなるのではないか。そう思って、10回以上セッションを受けた。

「リラ〜ックスしてください…」

セラピストの優しい声が響く。

けれど、私の頭は一向に休まらなかった。目を閉じても、次々と不安が押し寄せる。考えることをやめられない。リラックスなんて、私には無理だった。

催眠療法が効かないと分かると、次に頼ったのは祈祷師だった。どうやってその人を見つけたのか、今でも思い出せない。とにかく、最後の望みのような気持ちで家に呼んだ。

「あなたの苦しみを取り除きましょう。」

お札を渡され、お祓いを受け、言葉をかけられる。けれど、やっぱり何も変わらなかった。

「私は、何をしてもダメなのかもしれない…」

そのとき、不思議な気持ちになった。

——きっと、私は一生、洗脳されることはないのだ。

どんな言葉をかけられても、どんな術を施されても、私の思考は止まらない。ならば、誰かに頼るのではなく、自分で変わるしかない。

その瞬間が、私の転機だった。

学びと実践:自分を変える旅路

そこから私は、心理学を学び始めた。

パニックの仕組みを知り、自分の心の動きを観察し、少しずつ少しずつ、自分を整える術を身につけていった。

一歩進んで、二歩下がる。

何度も何度も挫折しながら、気づけば200メートル先の公園まで、娘と手をつないで歩けるようになっていた。

かつては考えられなかった未来が、少しずつ目の前に広がっていった。

想像を超えた未来へ

それから月日が流れ、娘は17歳になった。

あの頃の私は、「公園まで行けるようになること」しか考えられなかった。けれど、今の私は、カウンセラーとして多くの人と向き合い、心を支える仕事をしている。

当時の私には想像すらできなかった未来。

でも、今は分かる。

人は、想像した未来までは必ず行ける。そして、その未来にたどり着いたとき、新しい未来が見えてくる。

もし、今苦しんでいる人がいたら——

「大丈夫。あなたは必ず、その先の自分に出会える」

そう伝えたい。

あなたが想像できる未来まで、まずは歩いてみてほしい。そこにたどり着いたら、次の未来が見えてくる。

そうやって、一歩ずつ進んでいけば、今の自分では信じられないほどの未来が待っている。

終わりに:自分を守る術を知ること

そして、最後にもうひとつ。

どんなに苦しくても、自分にだけは嘘をつかないでほしい。

自分だけは、自分を守れる。

だから、自分を守る術を知ってあげてほしい。

それが、私がここまで来て学んだ、たったひとつの真実だった。


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