『約束の花』
ある少年がある女の子と約束をします。
でも少年はその約束を軽んじてしまいます。
そして誰にでもある出来事が大変な騒ぎになってしまう。
そしてそれを取り戻すには大変な時間が掛かってしまうのです。
この物語は約束の大事さや自然との共存を題材にした作品です。
是非最後までお楽しみ下さい。
『約束の花』
ある街に少年が住んでいました。
彼には友達がいません。
だから少年は街はずれの山に毎日一人で遊びに行っていました。
その山には町が見渡せる丘があり、まるで町を見守るように一本だけ大きな木が生えています。
少年はその大木の周りで遊んだり、木登りをしたり、お昼寝をしたり、
大木に悩み事を打ち明けたりしていました。
そんなある日、大木でお昼寝をしていると、同じ年くらいの女の子が現れました。
女の子にも友達がいないらしく、二人はすぐに仲良くなりました。
それから二人は毎日一緒に遊ぶようになったのです。
鬼ごっこをしたり、疲れたら大木に寄りかかってお昼寝をしたり、大木に登ったり、一緒に悩みを打ち明けたりしました。
そうして二人で楽しい時間を過ごしていると、ある日、女の子が秘密の場所を教えてくれると言いました。
少年は嬉しくてドキドキしました。
女の子も嬉しそうに少年に道案内をします。
2人は、じゃれ合いながら一緒に森の中に入って行きました。
少し進むと、沢山の木が集まって、トンネルのような形の穴が開いていました。
少年は探検をしているような気持ちになってワクワクな気持ちです。
それと一緒に不安な気持ちもありました。
トンネルは少し長くて暗い感じがしたのです。
少年は恐る恐る進みました。
少しの時間でしたが、少年には長く感じます。
その調子で進むと、太陽の光が差し込む出口が見えてきました。
それが見えた瞬間、少年は勢いよく出口まで走り、出口からジャンプしました。
すると、大きな広場が目の前に現れました。
そこには見たこともないようなキレイな花がたくさん咲いていて、風も心地よく、少年は両手を広げ、深呼吸をしました。
その間に女の子はそのキレイな花を一輪掘り起こし、根っこを紙に包んで少年にプレゼントしてくれました。
少年は嬉しくなって、「ありがとう!」と女の子に伝えました。
すると女の子は恥ずかしそうにニコニコしてうなずきます。
その後2人は秘密の場所でゴロゴロ転がったり、歌を歌ったりして遊びました。
そして楽しい時間はアッという間に過ぎて、もう暗くなったので二人とも帰ることにしました。
なんだか楽し過ぎて、帰るのが勿体ない気もします。
その帰り道、女の子が突然振り返り、
「二人で行った『秘密の場所』は誰にも内緒だよ?」
と少年に言いました。
少年は
「分かった!誰にも言わないよ。」
と約束しました。
それから少年はウキウキしながら町に花を持って帰ると、見たこともないようなキレイな花に町中の人が驚きました。
そしてみんなが羨(うらや)ましがり、その花の咲いている場所を聞いてきます。
でも少年は女の子との約束を守り、誰にも『秘密の場所』の話はしませんでした。
それからは毎日その花を見たくて、町中の人が少年の家に訪れ、
少年にも少しずつ友達が増えて、山に行く機会が少しずつ減って行きました。
毎日他の友達に遊びに誘われるからです。
女の子がどんなに寂しい思いをしているか、友達が沢山出来た少年は気付きません。
そんなある日、少年は一番仲の良い友達一人にだけ、花のある場所を教えることにします。
少年は森に入ったり、トンネルを通ったり、冒険の話を得意気に話ました。
そして最後に
「これは二人だけの秘密だよ?」
と友達に約束させたのです。
場所の秘密を教えてもらった一番仲の良い友達はとても喜び、
「明日一緒にその場所にお花を見に行こう!」
と2人で約束をしました。
そして次の日の朝、少年は友達を迎えに友達の家に向かいます。
今日はなんだか町の様子が騒がしく、みんなお出かけの準備をしていました。
少年は不思議に思いましたが、友達の家に向かいます。
そして友達の家に入ると、その友達はどうしてか、泣いていたのです。
「どうしたの?」
そう尋ねると、友達は泣きながら答えました。
「昨日、秘密の場所を教えてもらったのが嬉しくて、お母さんにだけ話したんだ。そしたらさ、
お母さんも友達一人にだけ話してさ、その友達が町のみんなに話してしまったんだ。
そしたらみんなその花が欲しいって・・・今からみんなお花を取りに行くって・・・本当にごめんね。」
そう言って友達はまた泣き始めました。
少年はとてもとても不安でとても怖い気持ちになりました。
それから少年は急いで山に向かいます。
山に向かう道にはズラリと沢山の人の行列ができていました。
スコップを持っている人、一輪車を持っている人、車や馬車で向かう人、沢山の袋を持っている人など、みんな楽しそうに見えます。
少年はそれを見て押し潰されそうな顔になります。
でも急いで秘密の場所に行かなきゃ!!
そう思ってこけそうになりながら一生懸命走りました。
大木を越え、森の中を越え、暗いトンネルを越え、やっとの思いで『秘密の場所』に着きました。
すると、なんということでしょう。
あんなにキレイだった広場は、土が掘り返され、
キレイな花が次々に無くなって行ってしまっているではありませんか。
トンネルを作っている木を人が通りやすいように、切っている人さえいます。
少年は涙が止まりませんでした。
そして泣きながら大人たちに
「お願い!もうやめて!!」
と伝えました。
でも大人たちは笑いながら花を取ることを止めません。
止めてもらうように大人たちに沢山頼みましたが、大人たちは話を聞いてくれませんでした。
何の力も持たない自分に、少年はとても力が抜けました。
そして少年はその場にへたりこみ、ただ泣きながら見守る事しかできませんでした。
その光景は日暮れまで続き、ついにはキレイな花は一輪さえもなくなってしまいました。
少年は泣き疲れて掘り起こされた土をいつまでも見ているしかありません。
そして大木で会った女の子を思い出します。
一番最初に出来た友達。
『秘密の場所』を教えてくれた友達。
あぁ僕はなんてことをしたんだ!!!
それから少年は目に涙を浮かべ、必死に女の子を探しました。
広場、トンネル、森の中、大木の場所、沢山探しました。
でも悲しいことに女の子はどこにもいませんでした。
それから毎日、少年は女の子を探しに行きました。
でも女の子は見つかりません。
少年はぐちゃぐちゃになった広場を見ながら、毎日泣きました。
そしていつも町に帰ると、町中にあのキレイな花が飾られていたのです。
少年は落ち込んで家から出ることが出来なくなりました。
心配になった友達が訪ねて来ますが、少年は家から出てきません。
キレイなお花のお陰で、少年には友達が沢山出来ました。
だから毎日色んな友達が訪ねて来ますが、少年は部屋からも出てくることはありませんでした。
少年は自分の部屋で、毎日女の子のことを考えていました。
大木に行けば会えていたその女の子は今ではもう会えません。
少年は胸を締め付けられるような気がして眉をひそめました。
それから何日も経ちましたが、少年はどうしても女の子に
会いたい気持ちを考えないようにすることが出来ませんでした。
だからもう一度女の子と会いたいと思い、部屋から出ることにしました。
すると何故か、家中にあのキレイな花が沢山飾られていたのです。
少年はビックリしました。
そしてそれは友達たちがお見舞いに来る度に1輪ずつ持って来てくれていたのだとお父さんが教えてくれました。
そこで少年は思いつきます。
「そうだ!この花を『秘密の場所』に植えよう!」
それから少年は毎日毎日、『秘密の場所』に一凛ずつ花を大事に植えていきました。
そして『秘密の場所』に行った後は必ず女の子を探しました。
『秘密の場所』は戻って来なくても・・・女の子とは会えなくても・・・毎日続けました。
そしてそれを見ていた友達もいつの間にか花を植えるのを手伝ってくれるようになりました。
そしてそれを見ていた友達の友達も手伝ってくれるようになりました。
そしてまたそれを見ていた友達のお母さんが、
そしてそれを見ていた近所のおばちゃんが、
そしてそれを見ていた近所の花屋のおじさんが。
それはどんどん広がって行き、毎日、町中の誰かが手伝ってくれました。
そして『秘密の場所』はあのキレイな花で溢れ、いつの間にか
前よりもたくさんのキレイな花が身を飾るお花畑になったのです。
町中のみんなの話し合いで、その場所は
『約束の場所』
その花は
『約束の花』
という名前が付けられました。
少年はとても喜びました。
でも寂しい気持ちもあります。
結局女の子と会うことは叶(かな)わなかったからです。
少年は大木に背中を預けて座り、町を見下ろしました。
そこは静かで心地良く、ちょうどいい風や、なびく草花、まぶしい太陽を大木がさえぎってくれて、とても気持ちの良い場所でした。
ここに女の子がいればなあ。
そうつぶやいて、少年は女の子との思い出を思い出しながらお昼寝をしました。
少年は気付きません。
何に気付いてないのかって?
女の子が大木の上からお昼寝をする少年をニコニコ見ていることにってこと。
2人はまた仲の良い友達に戻ることでしょう。
Fin...
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