しがつじゅうさんにち ⑴
えーと 今日は物語を書いてみました。
よかったらご覧ください。
「4月13日」
一度でいいから 暮らしてみたいと
ずっと欲していたことなのに
いざ、夜になると 怖すぎる。
森の中はいろんな生き物の鳴き声、気配
樹々が風にふかれて出す音は
晩秋の荒れた海の波の音みたい。
私 いま 大家さんのお屋敷の裏の
森の中にある小さな石造りの山小屋の
蚊帳を張ったベッドの上の寝袋の中で
じっとしている。
小動物みたいに鼓動が早く鳴っている。
あっちこっちにロウソクの灯りをともして
蚊取り線香を焚いている。
薪ストーブの炎は消えてるけど
まだ温かい。
4月13日の夜。
私がここで夜を過ごしているのを知っているのは大家さんのさわ子さんとその孫のトキちゃん
だけだ。
ストーブの上のやかんはまだあつくて
マグカップにお湯を注いだ。
カップを片手に、お湯をのみながら
ゆらゆら揺れているロウソクの灯りを
見ていたら、落ち着いて来た。
いま すごくこの空間が好きだなと思った。
少しうたた寝して目が覚めると
喫茶店のカウンターで
持っていたカップに
店員さんがハーブティーをそそいでくれた。
「あ 私 お財布持ってくるの忘れちゃって」
あわてて顔を上げるとヒトではなくて
眠そうな顔をしたコウモリの店員さんだった。
「えーと、あの、お代はいりません。かわりに
お話聞かせてください。昼間の世界が
しりたくて。今日のお昼何してました?」
「んー? お仕事してました。図書館で」
寝起きの私はなんでも素直に話す癖がある。
「図書館、ぼく行ったことないんです。どんなところ?」
「えーっとね 本棚がずらーっと奥に奥にならんでいて、いろんな本がたくさん置いてあって
自分の好きな本を借りることができるの」
「絵本もあるの?」
「あ はい。あります。あるよ。」
あたりを見渡すと ここは森の中で
木にぶら下げたランタンのロウソクの
灯りが優しくて、湿った土と草の匂い、
木々の香りに胸がいっぱいになる。
「今日はね、図書館で「お話会」があって
子どもたちのまえで絵本を読んだの。
あー、すっごい緊張して、終わってからも
ドキドキがおさまらなくて。」
「絵本 なに読んだの?」
「きりのなかのはりねずみって絵本」
「今度 ぼくにも読んで」
「うん 次は絵本持ってくるね」
コウモリは こくんこくんと
眠りはじめた。
小さな声で ごちそうさまと言って
私は山小屋へと帰った。
朝 目が覚めて
昨夜のことは
夢だったのか と 寂しくなった。
薪ストーブの灰を 外に捨てに行こうと
ドアを開けたら 風で灰が舞い上がり
顔にも服にもかかってしまった。