ごがつじゅうよっか　⑷

物語を書きました。
良かったら　のぞいてみてください。

朝からずっと雨が降っている。
私は一日中　森の家のなかで過ごしている。
屋根にあたる雨の音。
木々にあたる雨の音。
雨に濡れた土のにおい。
木や草のにおい。
薪ストーブのなかで　　
薪がパチパチ燃える音、におい。
蚊取り線香のにおい、けむり。
ゆれるロウソクの灯り。
優しい灯り。
ストーブに薪を焚べていても
なんとなく底冷えする、
森の中の小さな石造りの家。
全てが心地よい　5月14日　雨の夜。

窓辺に座って　窓とカーテンの間に
もぐりこんで　雨降りの森を見てる。
いつまでも見ていられる。

私は人間界では　街の図書館で非常勤司書を
している。
連休中はいつもよりもお客さんが多く
あわただしい。
普段から、本をどっさり入れた
折りたたみコンテナを
抱えて移動したりと、力仕事もあるので
体力のない私には、
体調を崩さず乗り切れるか、
不安になる時期のひとつだ。
ゴールデンウィークを無事乗り切れたことに
とても　ほっとしている。

人間界と森の家を行き来するようになって
1ヶ月が経った。
森の家に泊まる時に必要なものが
だいたいわかってきて、中くらいのリュックの中に、ぱっと荷物を用意できるようになったのが
うれしい。

うれしいことは他にもあって。

私は普段　友人からも恋人からも
名字や名前にさん付け　もしくは
ねぇ、とか　ちょっと　などと呼ばれることが
多いのだけれど
トキちゃんとサヴァから「コトコ」と呼ばれて
いることが、実はかなり、うれしい。


最近　森の家に泊まるときは
こうもりコーヒーの
夕方の開店前の準備と、
太陽が昇る前の閉店後の後片付けを
手伝っている。

トキちゃんから、この話を持ちかけられた時
とくに驚かずに話を聞いている私がいた。
かなりワクワクはしたけれど。

「コトコなら話しても大丈夫だと思ったけど、
やっぱりあんた　面白い子ね。」


そのセリフ　そのままお返ししますよ。
とは言えず、わたしは含み笑いをした。

サヴァのコーヒー屋台は
トキちゃんが提案したのが発端で
屋台のカウンターを作ったのも
メニューの　どんぐりクッキーを焼いているのも
飲み物を提供しているのもトキちゃんだ。

今夜は雨でこうもりコーヒーはお休みだ。
サヴァが遊びに来るのを待っている。
絵本も何冊か持ってきた。

雨の中、サヴァがやってきた。
窓をコツンとたたいて、こちらを見ている。
私は急いでタオルを持って
玄関のドアを開けに行く。
「こんばんは。いらっしゃい。」
「こんばんは。おじゃまします。」

雨にうたれたサヴァの眠そうな顔は
いつもに増して
憂いがあって、愛おしいと思った。

読んでくださり
心からありがとうございます。