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うにてんてん ⑶

物語を書きました。 よかったらのぞいてみてください。

「ウにてんてん」

ぼくは うまれたときから いつだって
ずっと眠い。

日が暮れるころになると目を覚ます。
明け方になると また眠る。
昼間はどうしても起きていられない。
トイレに起きることがあるけれど、外はまぶしすぎて目を開けていられない。

昼間に目が覚めると、ベッドの中で目を閉じたまま、耳を澄まして外の気配を感じ取ろうとしてしまう。

それで いつも寝不足なんだ。

昼間の世界が知りたい。
みんなどんな風に過ごしてる?
そして何よりも 誰かと話がしたい。
誰かと ほんの少しで良いから
なんてことない話がしたい。

夕暮れ時に 森の中を散歩していたら、
とてもきれいな音色が聞こえてきた。

音のする方に行ってみた。
木に隠れてこっそり見ると
ニンゲンが笛を吹いていた。
気づかれないように見ていたはずなのに見つかってしまった。

「あら、いらっしゃい。
どうぞゆっくりしていって。何か飲む?」
ぼくが何も言えずにいるとニンゲンは家の中に入っていった。
「うち、冷蔵庫ないから冷えてないけど、今開けたばかりだから
どうぞ。はい、りんごジュース。
それと、私、ニンゲンって呼ばれるの
好きじゃないの
トキちゃんて呼んでくれる?」

「トキちゃん…?
こんばんは。りんごジュースいただきます。」
「こんばんは。はい、どうぞ。お仲間にはなんて呼ばれてるの?」
「ぼくは仲間はいないんだ。
洞窟でみんなで暮らすの嫌になっちゃって
1人で森にやってきたの。」
「ふーん。そうだったの。なんか、人間みたいね。」

トキちゃんが吹いていたのはフルートという笛で
ぼくは その音色がとても好きになった。

「ね、お店でもやったら?
昼間の世界の話も聞けるし
誰かとお喋りできるじゃない?」

トキちゃんに ほとんど手伝ってもらいながら
ぼくは 森の中で 真夜中、コーヒー屋台を
はじめることになった。


メニューは
・たんぽぽコーヒー
・りんごジュース
・おみず
・カモミールティー
・どんぐりクッキー


で やってみようと思う。

お店の名前は「こうもりコーヒー」。

「あ そうだ。『サヴァラン』ていう名前の
フランスのお菓子があるんだけど、
今日ね、はじめて食べたの、美味しかったぁ。

『サヴァ』 どうかな?うん、似合ってる。」
「さば?」
「ちがうちがう。サヴァよ。『ウ』に点々。」

うにてんてん。
なんだかよくわからないけれど

トキちゃんがぼくに
名前をプレゼントしてくれた。
ぼくの世界は大きく広がりはじめた。

ぼくはこの森に暮らす こうもり。
名前は『サヴァ』。
真夜中、コーヒー屋台をやっています。