紙男@短編小説
果物をテーマにした不思議な物語を9編収録したマガジンです。 文学フリマなどの同人誌即売会イベント向けに冊子の制作していたものを、このご時世からnoteのマガジンでも公開しようと思いました。 9編のうちの7編は、すでにnoteに無料公開してある作品を加筆修正したもの、残りの2編の書き下ろしで、こちらはそれぞれ有料になります。 冊子を購入するよりお買い得になっております。この機会にどうぞご覧ください。
一編五分程度で読み終わる、短くも華やかな物語を全二話収録。有料版も販売しておりますのでそちらも是非ご覧ください(有料版は全八話の収録です)。
0~9までの数字をタイトルに冠した短編小説を収録したマガジンです。 当マガジンは17/4/1より冊子で頒布したものをマガジン化したものになります。 作品のジャンルはSFやファンタジーなど様々です。 短いながらも読みごたえのある作品の数々を、どうぞお楽しみください。
わたくし紙男と猫春雨さん( https://note.mu/kosoadobunko )が2015年5月に制作した合作短編ファンタジーです。光の世界に暮らす少女メイと、影の世界に暮らすの少女アン。二人が体験する摩訶不思議な冒険の物語をどうぞお楽しみ下さい。
本マガジンは、500文字で綴られた無限の物語“超短編”を収めたものです。 物語のタイトルのすべてを【○○的世界】と題し、奇妙奇天烈で摩訶不思議な世界を表現致しました。 パッと読めてパッと楽しめる、魅惑の物語の数々をどうぞお楽しみください。
昔々の大昔、人類が誕生する以前のこと。彼方の宇宙から、巨大な果実が地球に飛来した。 それは緑豊かな大地に墜落した。植物や獣、周囲にあったありとあらゆるものを範囲に渡って吹き飛ばし、大地に深く広いヘソを造った。 果実は半分ほど土に埋まった。無論、それには手足はおろか生命すらないからに、そこから動くことはない。未来永劫、その場所に留まることとなる。 ほどなく多種多様な虫や獣が果実に接近してきた。果実が放つ甘い香りに誘われてやってきたのである。 自身のからだの数百
ご無沙汰しております、紙男です。実に10か月ぶりに作品を投稿しました。タイトルを《イエローサブマリン》といいます。前編、後編の構成となっております。お楽しみ頂ければ幸いです。 https://note.com/paperman/n/nc17f8ce9de54
潜水艦だった。大きさは電車一両ほど。艦体のおよそ下半分が地面に埋まっている。長時間放置されていたのか、黄色いボディはくすんでいるうえに、苔や泥にまみれて汚れていた。 ジョージはぽっかりと口を開けて、潜水艦を見つめた。彼の頭の中では様々な考えが沸き出ている。 まず、何故このような森の奥に潜水艦があるのかが理解できない。あまりに不釣り合いだ。次に色や大きさなどが気になった。ジョージは昨年の夏休みに父親と横須賀に行き、そこで自衛隊の潜水艦を見ている。その潜水艦は黒く、全長
まとわりつくような蒸し暑さと無数の蚊、うっそうとした草木が針須(はりす)ジョージを襲った。高層ビルの反射光や排ガスならまだ我慢できたジョージだが、初めて経験するそれらにはまったく耐性がなかった。ジョージは色白のか細い腕で蚊や草を懸命に払う。その度に、幼いながらも端整な彼の顔に苛立ちが滲んだ。 「はよぉ行けよ、都会っ子」 連野純(れんの じゅん)はそう言うと、虫取り網の柄尻でジョージの腰を背後からつついた。彼は真新しい白のポロシャツを着ている。牛乳瓶の蓋のような眼鏡の奥
かねてより執筆していた『ミナト桜』が完結しました。全九回に渡る長めの作品になりました。楽しんで頂ければ幸いです。個人的には楽しく書けました。学校の七不思議としてシリーズ化したい気持ちもあります。一体いつになるやら笑
「美希ちゃんが亡くなったことを知ったのは、あの日から二年近く経ってからだったわ」 春芽(はるめ)樹改め根本樹は、遠い目をしながらお茶を啜った。その視線の先には年期が入った欄間や振り子時計などがあるが、きっと自分には想像できない壮絶な光景が見えているのだろうと、若葉は察する。 「命からがら日本に帰国したアタシは、いの一番にあの子の家に向かったんだけどね、そこにはもうあの子の家はなかったの」 「えっ、もしかして、空襲で焼け落ちちゃったとかですか」 若葉の質問に、樹は首
「ここ梢君!」若葉は裏返った声で叫んだ。「どうしてあなたがこんなところにいるの」 「それはこっちの台詞だ。仕事で学園内歩いてたらお前を見かけて、ただごとじゃなさそうだと思って追いかけたら、お前は結界の向こう側。やっとのことで侵入したら人が首吊ってる。焦らない方がどうかしてるだろ」 「しごと? けっかい?」早口な湊人の言葉に、若葉はますます混乱する。 「つうか、そんなことはどうでもいいんだ」湊人は若葉を見下ろして言う。「怪我、ないか」 「へっ? う、うん……」 「そう
昨日は待ちに待った文フリでした。一年ぶりとあり、出展者も来場者もどちらも活気と賑わいがあったように思えます。私もとても楽しんで参加することができました。お越し頂いた皆様、改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました(#^.^#) 拙作を少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
微塵も風が吹いていないために、太い枝から吊り下がる紗枝の体はピタリと静止してる。そのことが、その惨(むご)たらしい紗枝の姿を現実離れしたものとして、若葉に印象づけさせた。 嘔吐のような強いむせ返りののち、若葉の体はようやっと呼吸を始めた。空っぽになってしまった頭に充分な酸素が届けるために、心臓は爆ぜるように激しく動く。だがそれは痛みを伴った。若葉は胸を強く強く押さえてうずくまる。また、頭に酸素が回ったことで、思考が働くようにもなってしまう。 紗枝ちゃんが死んじゃった
いよいよ来週に迫りました、第三十一文学フリマ東京! わたくし紙男も『kami note』として参加します。ブースは『ス-01』、お品書きは添付画像をご覧ください。春の文フリは中止になってしまったので、今回は気合を入れて臨みます。皆様のお越しを心よりお待ちしております。
目の前が突然明るくなった。若葉はハッとして顔を上げる。 「若葉あなた、電気もつけないでどうしたの」 声がした方を見れば、若葉の母親が、驚いたような表情で立っていた。あかぎれたふくよかな手が、ドア近くの壁にあるスイッチから離れた。 若葉は周囲を見渡した。 自分の部屋にいた。入学祝いに両親から買ってもらったシンプルな学習机の椅子に座っている。花柄の壁時計は二十時過ぎを示していた。服装もブレザーではなく、着古した半袖のTシャツとスエットの部屋着姿だった。手や腕、膝な
明くる日、若葉は日直の仕事に負われた。日直の仕事は通常、隣の席のクラスメイトと二人一組で行う。しかしそのクラスメイトの女子が朝から体調不良を訴え、二時間目の授業が始まる前には早退してしまったのである。ゆえにすべての仕事を若葉ひとりでこなさなければならなくなった。 特に苦労したのは授業後の黒板消しだった。背の低い若葉は、椅子を使ったとしても、黒板の上部を消すのに目一杯背伸びしなくてはならなかった。ワイシャツやスカートを汚さないよう注意する必要もある。そのせいで休み時間の十
放課後になった。若葉は荷物をまとめて図書館へ向かう。今日は図書委員の当番の日である。 図書館は中等部校舎の近くに建っている。三階建ての、赤煉瓦とそこを這う蔦(つた)が特徴的だ。ここは昨年の改修工事でも最低限の耐震補強が行われたに留まった。戦争の空襲で焼け焦げた箇所も一部ある、学園百年の歴史を色濃く残した場所のひとつである。 若葉の仕事は主に返却本などを元の場所に戻すことだ。まだ棚の配置を覚えきれていないために時間はかかるが、自分のペースで仕事を進めることができた。だ
今しがた、連続して投稿している『ミナト桜』の3話目を公開しました。お楽しみいただければ幸いです。 ただ、前回まで(〇/7)としていたのを今回から(〇/8)にしました。自分の見通しが甘かったので修正しました(*_*; これからも引き続き投稿していきます(^^)
「それじゃこの問題を、耶麻さん、前に出て解いてください」 「は、はいっ」 若葉は裏返った声で返事をし、起立した。その際机に脚をぶつけ、花柄のペンケースなどを床に落とす。大急ぎで拾い、大急ぎで黒板の前にやって来て、ノートを片手に目一杯背伸びをして数式の解答を板書する。 背中から茨で突かれたような視線を感じた。声や音に敏感になり、チョークを持つ手がさらに震えた。 どんくさい子って思われてるかな。チビって思われてるだろうな。字、汚いかな。答え、間違ってないよね。
「若葉、そんなに落ち込まないで」 放課後、階段を降りながら紗枝は言った。後ろに続く若葉は、頭上に鉛色の雨雲が浮かべているかの如く落胆していた。まともに紗枝のことを見ることができず、首はほぼ直角に曲がっている。 若葉は今しがた職員室に赴いた。そこで担任である丸眼鏡をした初老の女性教師から穏和ながらも長い説教を受けた。その後、桜のヘアピンが届けられていないかを、福耳が特徴的な担当の男性教師に確認したが、今日はまだ何も届けられていないと返された。 「あれはもう若葉のものだ