【長編小説】リトライ;リバース;リサイクル #21
【語り部:五味空気】
「さて」
そして案の定、食事が終わると、仕切るように少女は軽く手を叩いた。
「それでは尋問に移ります。こっちに来てください」
「やっぱり今日もやるんだね……」
「当然です」
手招きをする少女に言われるまま、鉄格子に近寄った。
少女は昨日同様、写真を床に並べる。そこには予想した通り、目を背けたくなるような惨憺たる惨状ばかりが収められていた。
「さきほど貴方は、また夢の中で殺されたって言ってましたよね」
「嘘じゃないよ」
念押しの確認に、少女は自身の首元をとんとんと指差し、言う。
「拘束具が反応してないんだから、それはわかってます。夢は記憶の整理の際に生じるものだとも言いますし――ですから仮に、その証言を妄言ではないとしてみましょう」
言いながら、少女はずらりと並べた死体の写真を指でなぞる。
「この中に、貴方を殺した人間はいますか?」
そう問われ、一枚一枚をじっくりと観察する。
少女が提示した写真は、全部で十一枚。ぱっと見ただけでも、知った顔がふたつはあった。昨日の夢の中で俺を殺したはずの男。それと、俺が少女を庇った際に殺した男だ。
「左からみっつめと、一番右」
だからその通りに答える。
「なるほど」
相槌を打ち、少女はその二枚の写真をついっと自身の方へ寄せた。
「他にはいませんか?」
「他は……あ、こいつだ」
それは、右から四番目の男だった。
「今朝の夢で俺を斬りつけてきたのはこいつだよ。うん、こんな顔だった」
「そうですか」
俺の回答を受け、眉間に皺を寄せて思案顔の少女。
その正面で、俺はわけもわからず疑問符を浮かべるばかりだ。
「……これらの写真には、ひとつだけ共通点があります」
まだ結論は出ていない様子だが、考えを整理しながら慎重に、少女は話し始める。
「この人達は、殺人鬼による殺害現場で、即死ではなかったんです」
「即死じゃない……?」
「一人だけ明らかに死亡推定時刻が遅い、と言ったほうが良いかもしれません。恐らくは一対多数となっただろう殺人鬼は、いつも決まって一人だけ、かろうじて生かしておいたようなんです。だけど伝言を残すわけでもなく、数時間後には死んでいます。その理由がわからなかったんですが、それが貴方を殺す為だったとしたら――」
ごくり、と生唾を飲む。
少女の脳内でパズルのピースが次々に嵌めこまれ、正解が姿を見せようとしているのだ。俺は期待して、言葉の続きを待つ。
「――余計にわけがわかりませんね」
「だよねー」
こう言ってはなんだが、こんな子どもにでも導き出せるようなものが正解であれば、きっと他の大人達がとうの昔に気づいている。
動機も経緯も不明。そりゃあ現場に居合わせた、無傷で返り血まみれの男を殺人鬼にもしたくなるというものだ。
「そもそも貴方、殺したら死ぬんですか?」
「そりゃあ死ぬでしょ」
「常識で考えればそうですけど、貴方は回復型の四鬼なんでしょう? 事実、貴方は殺された記憶があると言いますが、今もこうして生きているじゃないですか。傷の治りが早いというのなら、案外あっさり蘇生できたりもするんじゃないですか? その代償に記憶を失っているとか」
「怖いこと言わないでよ」
傷の治りが早いからと言って、蘇生できるかどうかは別問題である。しかしそれを肯定してみると、何度も殺される夢をみることに得心がいくのも確かな話だ。死なないのなら、何度だって俺は殺せる。俺がみる夢は、だから過去に殺された 【俺】の記憶の断片に他ならない――そういうことだ。
何度も死んで、何度も生き返る。
ぐるぐると、くるくると。
一人で輪廻を循環する。