マガジンのカバー画像

単発短編小説

9
一話完結の短編小説置き場。
運営しているクリエイター

#高校生

【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました

1.――「あの……どちら様でしょうか?」 「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」 「……ふうん」 「それで、映画の帰りに、行ってみたいカフェがあるんだ。ラテアートが可愛いんだって。そこも一緒に行こうよ」 「……別に」  月に一度行われる、婚約者とのお茶会。  家同士が取り決めた婚約者であり、幼馴染である櫨原侑誠は、私の向かいの席で、つまらなそうに生返事を繰り返す。  別に良い。いつものことだ。  小学校中学年頃から高校二年生に至る今日まで、私

【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

(1)――今日は、というか、今日も、だ。  酷く嫌な夢をみた気がして、私は目を覚ました。  心臓はまだ早鐘を打っていて息が上がっているし、十月の朝とは思えないほど滝のような汗をかいている。  それなのに、夢の内容は微塵にも覚えていなかった。  怖かった。  その感情だけが色濃く残っていて、余計に後味が悪い。 「ひさぎー? いい加減に起きないと遅刻するよー?」  階下から、私を呼ぶ母の声がした。  この呼びかけで起きなければ、部屋に母が突入してくる。別に、部屋に見られて困る