【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました
1.――「あの……どちら様でしょうか?」
「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」
「……ふうん」
「それで、映画の帰りに、行ってみたいカフェがあるんだ。ラテアートが可愛いんだって。そこも一緒に行こうよ」
「……別に」
月に一度行われる、婚約者とのお茶会。
家同士が取り決めた婚約者であり、幼馴染である櫨原侑誠は、私の向かいの席で、つまらなそうに生返事を繰り返す。
別に良い。いつものことだ。
小学校中学年頃から高校二年生に至る今日まで、私