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単発短編小説

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一話完結の短編小説置き場。
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【短編小説】腹ぺこ吸血鬼の恩返し

(1)――「血を、寄越せ……!」  その日の帰り道は、生憎の雨だった。  今日はせっかくの満月の日だっていうのに、空は一面厚い雲に覆われ、月のつの字もない。  雨だ。  豪雨だ。  土砂降りだ。  ざあざあと、雨が強くアスファルトを叩いている。  そんな最悪な帰り道の、途中。  暗い道に、思い出したかのようにある街灯の下。  そこに、一人の女が座り込んでいた。  ぐったりと項垂れ、意識を失っているように見える。  酔っ払いだろうか。それにしたって、酔い潰れるには早い時間の

【短編小説】あのとき守れなかった約束を、もう一度。

 身支度を整え、あいつのお気に入りの花である水仙と、一番好きなお菓子だっただろうチョコチップクッキーの袋を持つ。  雨天決行。  傘立てから傘を一本抜き取り、私は家を出た。  傘には、ばつばつと勢いよく雨が当たる。ビニール傘は一瞬にして濡れ、そこに数多の水滴をくっつけていた。  春を待つ季節の雨は、しっとりと足元を冷やす。しかし、それは私が外出をやめる理由にはならない。  今日の私には、約束があるのだ。  だから私は、春の嵐にも負けず、目的地へと歩を進めるのだ。  あいつと

【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

「明日死ぬって言ったらどうする?」  その日、私は友人である英生と中華料理屋に来ていた。  目的はひとつ、激辛料理である。  私たちは、定期的に激辛料理を食べる。  それはストレス発散の為であり、互いの近況報告の為でもある。忙しい社会人にとっては、なくてはならない大切な時間だ。  どうして毎回激辛料理かと訊かれれば、答えは単純明快。素面で話すには恥ずかしいけれど、お酒を入れるほどでもない話題に、美味い辛いとひいひい言いながら食べる激辛料理は、思う以上に最適なのだ。  今日も、

【短編小説】世界終焉の、一週間後。

 一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。  二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。  一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。  そうして、世界は滅んだ。  そのはずだった。 「なんで生きてっかなあ」 「そりゃあ、死んでないからっしょ」  世界終焉の、一週間後。  滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。  ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……それから、なんだったか。とにかく天変地異が起き続け、それによって滅んだのだ。  こ