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夏の真ん中に

『○○、明日1日ちょうだい!』


幼なじみからいきなりメッセージが届いたのは昨日の夕方だった。



『どうせ勉強してないんでしょ?』


なんて続く。

あいつの言う通りだ、勉強なんて出来るはずがない。

ずっと練習し続けてきた野球部の最後の大会もあっけなく終わってしまった。

今はもう俺は普通の受験生だ、なんて自分に言い聞かせてみても全く身が入らない。

何すんの、とだけ返事した。

すぐに帰ってきたメッセージには


『いいから、駅前に10時ね』


とだけ書かれていた。

駅前の大きめのショッピングモールなら買い物や映画館、レストランなんかは揃ってるし何より涼しい。

近くに遊ぶようなところは他にないし。大方そこで何かするんだろう。

そう思って10時前に駅に着いた。






??「○○遅いぞ!」

○○「いや、まだ10時なってないし」

??「レディを1人で待たせるなんて、いい度胸してんじゃん。」

○○「お前がレディなあ…」

遥香「なによ、レディはレディでしょ。」


賀喜遥香、例の幼馴染だ。



遥香「早く行くよ、待たせたんだからジュース1本○○のおごりね!」


そう言って早足で改札の方へ向かっていく。 


○○「ちょ、どこ行くんだよ」

遥香「あそこのショッピングモールだと思ったでしょ?もっと遠くに行きまーす!」

○○「だからどこ行くんだって」

遥香「まだ内緒でーす」 



やけにハイテンションな遥香に連れられて電車に乗る。
俺の大会の話やお互いの勉強の話、他愛のない話をしながらいつもは乗らない電車に揺られる。

しばらくすると人が増えてきて自然に遥香との
距離が近くなる。

いつも一緒にいるとはいえ、こんなに近づくのはいつぶりだろうか。

そんなことを思っていると自然とドキドキしてくる。


遥香「暑いね」

○○「あ、ああ。急に人増えたしな。」

遥香「そろそろ降りるよ。」

○○「おっけー」 


1時間ぐらい電車に揺られて着いたのは、小学生の頃に一度遠足で来たことのある海辺の街だった。

あまり都会ではないし人気の観光地というわけでもないのに駅前は人でごった返している。


遥香「今日、夏祭りなんだ」

○○「夏祭りか、夏祭りなんか来るの意外と久しぶりだな」

遥香「部活ばっかりだったもんね」


そう言って微笑む遥香。 


遥香「先行くところあるから着いてきて!」


そういって連れていかれたのは、お祭りに向かう人の雑踏とは反対側にある小さな旅館だった。


遥香「ここわたしの従姉妹がやってるんだ」
  「今日は泊めてもらえることになってて」

○○「じゃあお前にあげるの1日じゃねえじゃん」


思わず笑みがこぼれる。

泊まりがけで友達と旅行なんて初めてだ。


遥香「着替えるからちょっと待ってて!」


しばらくして出てきた遥香は、




遥香「どう、かな…?」


どうもなにも、可愛い。

なんか照れ臭いし本人に直接言ったことはないけど遥香は正直可愛い。



○○「ああ、似合ってるぞ」

??「あら、この子が遥香の彼氏さん?」

遥香「だから、ただの幼なじみだって!」

??「あら失礼」
  「遥香の従姉妹の真佑です」

○○「あ、遥香の同級生の○○です」



真佑「遥香、今日のことすごく楽しみにしてたから○○くんお願いね。」
  「お部屋準備して待ってるからね」

○○「はい、ありがとうございます!」

遥香「真佑ちゃん着付けとかありがとう!」
  「○○早く行くよ!」


そう言って遥香にいきなり手を引かれて夏祭りに。

海沿いにある会場は潮や屋台のソースにかき氷のシロップ、色んな香りで溢れている。


遥香「やっぱり焼きそばとかき氷は外せないよね!○○は食べたいのある?」

○○「うーん、やっぱりお好み焼きだな」

遥香「いいね!買っちゃおっか!」


そう言って走り出す遥香。

追いかけようと思って俺も走り出した瞬間、

遥香「いたっ」

慣れない浴衣と下駄のせいか、躓いたらしい


○○「全く鈍臭いな、ほら」

遥香「え、」

○○「どうした?どっか痛いのか?」

遥香「いや、手、出してくれるんだって…」


さっきから普通に俺の手を引っ張ってた癖にこういう時は真っ赤になるのかよ。

不覚にも可愛いなと思ってしまったし、男女の距離みたいなのを感じた気もする。


○○「買いに行くんだろ?」

遥香「うん!」


そう言って遥香は手を握り返してきた。

遥香にギュッと手を握られたまま屋台へ向かう。

どうやら離す気は一切ないらしい。


屋台で食べ物を買って、

人の少ないところで食べて、

かき氷を買いに行って、

いつの間にか、どちらからともなく手を繋ぐようになっていた。

自然に。


遥香「ねえ、そろそろ花火の時間だね」


ピンク色のシロップがたっぷりかかったかき氷を頬張りながら遥香が言う。


○○「見に行ってみるか」

遥香「待って、まだ食べ終わってない!」


いきなりかき込んで案の定頭を抑える遥香


○○「ゆっくり食べながら行こーぜ」

遥香「そうだね」


お互いかき氷を持ってるから手を繋がずに歩く。

なぜかこの距離に違和感があって、

なんでこんなこと考えてるんだ?なんて熱くなる体にかき氷が丁度いい。




少し歩くと、人混みの中に来た。

この辺でいいかと立ち止まる。

いつの間にかかき氷を食べ終えた遥香が手をそっと握ってきて、 

何故か安心してしまう。


すぐに上がり始めた花火は大きな音と眩い色とりどりの光で俺たちの目を釘付けにする。


花火に見入ってるうちに、俺の手を握る遥香の手に力が入ったような気がして。

ふと横を見ると、目に花火を見上げる遥香の顔が驚くほど綺麗に映った。


やがてとびきり大きな一発が打ち上げられて花火は終わった。

ぞろぞろと駅の方に歩き出す人の波の中で俺達もさっきの旅館を目指す。

手を繋いだまま旅館に着くと、忙しいだろうに真佑さんが迎えてくれた。

着替えを手伝うからと遥香と部屋に入る真佑さんに大浴場の場所だけ教えて貰って俺はそこに向かう。



大浴場には露天風呂もあって、汗を流してからそこに入ってみることにした。

さっきまで花火が上がっていた夜空を見上げていると、どうしても遥香のことを考えてしまう。



俺はもしかしたら、あいつの事が好きなんじゃないだろうか。



さっき最初に手を引かれた時は戸惑ったし緊張した。


あいつと2人で出かけたことは何回かあるけど、手を繋いだのは初めてだった。


初めてだから戸惑うのも緊張するのも当然と言えばそうなのかもしれない。


でも、ただ戸惑って緊張した訳じゃなかった。


いつの間にか、手を繋いでいるのが心地よくなって、手を繋いでいないと変な感じがするようになった。


誰とも恋をしたことがないけど、これが「好き」ってことかもしれないなんて想像はつく。

 
幸い、俺と遥香は仲がいい。
きっと告白するべきなんだろう。


でも今はダメだ、

遥香の邪魔はできない。


あいつは頭が良いから受験勉強を頑張ってる。


終わった時に、気持ちを伝えよう。





そんな決心をした頃にはすっかりのぼせていた。



部屋に戻ると、誰もいなかった。

髪の毛長いし、風呂も時間がかかるんだろう。

そう思ってなんとなく窓際の座椅子に腰を下ろす。


海や星が大きな窓からよく見えて、

あんまり旅館に泊まることはないけど

いい部屋を用意してくれたんだろうなって想像はつく。




遥香「ねえ、何してんの?」

○○「え、ああ、遥香か。ぼーっとしてただけ。」

遥香「今日さ、楽しかった?無理やり連れてきちゃったけど…」

○○「楽しかったよ。こうやって友達と遠出して夏祭りなんて初めてだし。」




友達ね、

そう言って星空を見つめる遥香の横顔が俺の決心を揺るがせた。



きっと友達以上の関係性になりたがってるのはお互いなんだ。

 



○○「なあ遥香、俺、遥香のことが好きかもしれない。」

遥香「ふふっ、私は○○のこと好きだよ。」

○○「俺と、付き合ってください!」

遥香「喜んで!」




こうして俺たちは無事カップルと呼ばれる関係性になった。


遥香「○○さ、勉強してないって言ってたじゃん?私と一緒にしようよ」

○○「でも遥香の志望校はレベル高いし邪魔になるだろ?」

遥香「○○も私と同じとこ目指すんだよ」

○○「は?」

遥香「○○はちゃんと目標があったら頑張れるでしょ?じゃ、明日から勉強ね!」



付き合って最初にするのは勉強

なんてのも俺ららしいかもしれないな。






○○と遥香が同じ大学でキャンパスライフを謳歌するのはまた別の話。  





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