肩を貸す
○○「いや、元気づけろって言われても…」
第一志望の大学に合格できず落ち込んでいる幼なじみの井上和、
「元気づけられるのは○○だけだよ!」
と言われて会いに来たはいいものの
和「…」
中々口をきいてくれないどころか、
顔も上げてくれない
なんとなく生活していた俺と違って、
和は1年以上前から勉強を頑張っていた
当然かけられる言葉もなく、
ただ気まずい時間が流れている
○○(おい菅原)
心の中で、ここに無理やり連れてきた菅原咲月に
矛先を向けてみるけど意味は無い
○○「なあ、出かけないか?」
ここにいても結局埒が明かないから
外に出てみようと誘う
和「…うん」
今は落ち込んでても根は活動的な方の和
やっぱり誘いに乗ってくる
まだ寒さの残る季節、
丁寧にマフラーを巻く和を待って一緒に外に出る
特に相談しなくても俺と和の足は同じ方へ向かう
相変わらず無言が続くけど、
歩くという動作が加わるだけで
少し気まずさが軽減される気がする
○○「座ってて」
いつもの公園について和をベンチに座らせ、
飲み物を買いに行く
和はホットココア、
俺は
コーンスープにするか
2人分の飲み物を持ってベンチに戻る
ココアを受け取った和は、
サッカーボールを追いかける小学生たちを
ぼうっと見つめている
和「○○もさ、」
和は小学生から目を離さずに呟く
和「ここでよく遊んでたよね」
○○「ああ、小学生の時はな」
会話が止まる
2人でちびちび飲み物を飲むだけの
気まずい沈黙がやってきた
和「私さ、この公園好き」
熱いココアを少しずつ飲んでいた和が
上着を放り出して駆け回る小学生たちの声に
掻き消されそうな声でつぶやく
○○「知ってるよ」
和「勉強で疲れた時とかもよくここに座っててさ」
和「ここで○○に何回も相談に乗ってもらったし」
和「あの時はなんとなく合格できるんじゃないかなって思ってた」
和「模試の判定も悪くなかったし、頑張ってたから受かるんじゃないかなって思ってた」
声を震わせる和
頭を撫でてあげることしかできない
和「浪人はしないって決めてるし、滑り止めのところには受かったからさ、」
和「切り替えないとって分かってるんだけど」
○○「別に今無理して切り替えなくてもいいんじゃないか?」
○○「いつかは切り替えないといけないけど、入学式はまだ先だしさ、」
○○「和なら友達できたり授業始まったりしたら自然に馴染めるよ」
○○「なんなら俺も菅原もいるし」
和「そっかさっちゃん一緒なら安心かも」
和「え?○○もなの?」
○○「俺も第一志望だめでさ、2人と同じ大学行くわ」
○○「え、菅原とかから聞いてない?」
和「うそ、知らなかった」
和「なんかごめんね…」
○○「まあ俺はあんまり真面目に勉強できなかったし、そんな気使わなくても」
和「ふふ、確かにそうだ」
和の笑顔、久しぶりに見た気がする
受験勉強の間もずっと
思いつめたような顔をしていたから
和「○○ほんとサボってばっかりだったもんね〜」
○○「おい、急にいじり出すなよ」
いきなり元気になりやがって
でも安心だ
きっともう和は大丈夫
和は強いから、
俺じゃなくても笑顔になってくれる
和「なんかでも、○○がいるなら大丈夫そう」
○○「元気になったんなら帰るぞ」
立ち上がって歩き出すと、
慌てたように追いかけてくる和
その頬が少し紅かったのは
きっとホットココアのせいだろう