【2024年6月】先月聴いた中でお気に入りのアルバム
こんにちは。やっていきましょう。今月はちょっと多めです。12枚。
雪国『photos』(2024)
とても精細な息づかいを感じられるシューゲイザーアルバムでした。とはいってもシューゲイザー一辺倒の作品ではなくオルタナやドリームポップも適度に織り込まれたバランス感のよい作品だなと感じました。ギターサウンドには充分な迫力がありますが全体的にどこかソフトな印象があるのでとても聴きやすかったです。抜け感のある爽快なアルペジオと豪快にかき鳴らすギターストロークまでサウンドメイクにこだわりを感じました。タイトで緊張感のあるシーンと伸びやかで明るいシーンとの緩急が自然と入れ替わり混在していたので、気づかぬ間に景色が移り変わっているような不思議な体験がありました。壮大で大迫力なラストの盛り上がりも素晴らしかったです。
安部駿『Shun Abe』(2024)
日本人の音楽的感受性を様々な角度から解釈したようなアルバムだなと思いました。祭囃子のようなリズムのパーカッションだったり日本庭園を思わせるような上品で奥行きのあるシンセサウンドなどが全体の方向性をさりげなく示しているなと感じました。それでいてアレンジはかなり大胆で、大袈裟で派手に展開していくのでドラマチックな印象を受けました。内面から常に人種としての日本人の感性と、外から見た日本の音楽からのインスパイアが共存してるような多角的な視点をまとめた作品だなと思いました。またそれが狙っているかのような雰囲気が感じられず、ごく自然に出来上がったかのような空気感であったのがとても好印象でした。ジャケ写の不気味さからダイナミックなアンビエントテクノまで隅々まで楽しめる一枚です。
YUKI『SLITS』(2024)
今までの多様なYUKI像が混在している受け皿の広いアルバムでした。彼女の中に潜在的に存在している少女らしさが現れる瞬間もありますが、全体を通して大人の生活や年月を重ねた変化のようなものを感じました。最初3曲が打ち込み主体でそれ以降はバンドアンサンブルを軸に構成されていて、アレンジもポップ調からオルタナ、ソウル、ラップまでと幅広く展開されていました。そのような多彩な音楽的要素や彼女の多様な側面が次から次へと入れ替わり多面的な彼女の内側というかペルソナのようなものを感じました。そうした今までの変化を感じさせると同時にこれからも自分自身へ挑戦し続けていく意思とも言える力強さもも内包しているのではないかなと思います。
xiexie『wellwell』(2024)
サイケ感の匂う詞の世界観とギターワークスが空気中に溶けだすような質感が魅力的なアルバムでした。空間系のエフェクターを駆使した巧みな空間設計で、メロウで透明感のある心地よいサウンドが広がっていきます。ドリームポップやネオアコなど多種多様なジャンルが同居していますが、この音作りと抜群のメロディーセンスで統一感のある一枚に仕上がっているなと思いました。日本語と英単語を組み合わせた歌詞も面白く、アルバムの雰囲気いとてもマッチしていました。歌詞の発声というか発音も英語と日本語が曖昧になるような歌い方が印象に残りました。全体的にシンプルな構成ながらも決して大味ではなく、各楽曲が確かな個性を放ちながらも一つのアルバム作品として共存しているバランス感も素晴らしかったです。
Manouchi『Kurashiki』(2024)
ディレイとリバーブが際限なく広がり無限のような空間を演出したテクノサウンドが楽しめる作品でした。ハードウェアシンセの一発撮どりを記録したものということですが、金属的で人工的なシーンと自然を彷彿とさせる有機的なシーンがどっちも出現する不思議な曲たちでした。そのふり幅も大きくryoji ikedaのような音楽と呼べるかすら怪しく思うほどのサウンドもあり、方やC418のような心落ち着く牧歌的なサウンド流れたりと多様な瞬間がみられる一枚だなと思いました。その繋がりもシームレスで無理やり共存させられているような違和感もなく、その表情づけが一発どりの中で行われたのが面白いなと思いました。終盤に聞こえる雨の音も効果的で自然の音はアルバム中でもそれだけしかないのに、頭からそういった自然のサウンドがバックで流れていたような雰囲気にさせていました。
稲葉浩志『只者』(2024)
1stアルバム《マグマ》にも通ずる初期衝動のようなエネルギーを感じた一枚でした。ジャケ写も似たような雰囲気にしてるのも意図的かなと勘ぐっています。稲葉さんのソロ作品に共通して言えることですが、B'zの時と違って小さな世界を丁寧に描き出す印象があります。アイレベルが低くなるような。そのフォーカスがより近くに迫って親密感のある作品だなと感じました。どこかのインタビューかで「自分にとってB'zは鎧だ」という発言があったと思うんですが、そういう内向的で小さい自分を今作で惜しげもなくさらけ出しているなと思いました。けどそれはネガティブな印象を与えずそこから先へ向かうエネルギーへの変換は健在でした。蔦谷好位置さんを迎えた新しいアレンジも新鮮で、ソロでしかできないようなクリエイティブで音楽を楽しむ空気感も漂うアルバムでした。
Cornelius『Ethereal Essence』(2024)
メロディアスで上質なアンビエントが並ぶコンピレーションアルバムのような規模感の作品でした。多岐にわたって楽曲を提供したり色んな年代の楽曲から引っ張ってきたりなどしているのがこのアルバムの巨大さをになっているのかなと思います。アンビエント色の強い楽曲を集め再構築した本作ですが、個人的にはテクノポップの要素もそれなりに大きく含まれていてとても親しみやすい印象だなと感じました。谷川俊太郎さんの詩の朗読にぴったり音を当てはめたり、林檎をかじる音声をサンプリングしてループさせたりなど彼の音楽的な挑戦やアイデアも楽しめる作品です。無意識に耳を傾けたくなる瞬間もあれば流れるようにしみ込んでいくサウンドもあったりとアンビエントという狭いテーマの中でもレパートリーに富んだ作品になっているのではないかなと思いました。
折坂悠太『呪文』(2024)
優しいテイストながらもストレートなメッセージを届ける静かながらも熱いアルバムでした。時折出現するスキャットのような反復する正体不明の単語が出てくるのは一種の呪文なのでしょうか。ジャケ写からも伝わるように生活感がにじみ出る楽曲達ですが、それは決して穏やかなだけでなく厳しいことや不安材料も同時に存在することを克明に描き出していました。そしてそれらに対する切実な思いや願いも綴られており、そういった文脈での”呪文”も含まれているのかなと思いました。アルバムを通した楽曲の雰囲気も起承転結のように展開が繰り広げられ、最初の緩やかな始まりからラストの壮大かつ緊張感のある演奏まできれいな繋がりを感じました。
窓辺リカ『Infinite Window』(2024)
ポップなジャケ写からは想像できないエッジの鋭いハードコアテクノが炸裂するアルバムでした。終始暴力的とも言える音の大群で圧倒されます。グリッチポップの要素も感じたのですがこんなに速く切り刻まれる楽曲は初めてでした。アルバム全体に薄っすらと漂う退廃的な空気感やこの世とはかけ離れたような多層的な詞の風景がこのブレイクコアと強烈な化学反応を起こして強烈なインパクトと迫力が生まれていました。かつ自然や生物にまつわるモチーフがたくさん出てきたりそれを細く暖かい歌声で歌うことで、楽曲そのものが生きているかのような感触がありました。この根幹にある生への哲学をテクノという巨大な材料で肉付けしている様は異様であっても何か、人間共通の感性に訴えかけるようなパワーを感じられる奇妙で魅力的な一枚です。
湯川潮音『逆上がりの国』(2004)
ファンシーな世界が広かる上質なフォークアルバムでした。滑らかでぶれのない声が詞の情景をストレートに映し出しています。アコースティックにこだわった楽器類のアレンジも素朴な肌触りで、とても柔らかい印象を持ちました。それぞれの楽器が細かいニュアンスやアクセントを緻密に表現し、情感たっぷりに演奏されているなと感じました。終盤の《Reφuiem》でのコーラスも人の歌声であると同時に、一種の神聖な楽器の音色だなと感じさせるような独特かつ美しい空気感がありました。輪郭がぼやけるような幻想的な世界観とそれを構築するナチュラルテイストなアレンジの妙が大きなシナジーを生んでいる一枚です。
如月小春『都会の生活(+3)』(1983)
多国籍なサウンドが次から次へと流れてくる様に圧倒されるアルバムでした。シティポップやレトロなテクノポップ、パーカッシヴな音楽までありとあらゆる要素が詰め込まれていました。歌詞の世界観も不思議ですしメロディーの乗せかたも独特のリズム感覚で行われていて、繰り出されるサウンドに振り回される感じがありました。しかし現代的なテクノロジーやサウンドの量でゴリ押すようなものではなく、変則的にトリッキーな演奏とアレンジで入り組んだ楽曲に構築されていました。そしてそれらが日本のポップスという枠組みから外れることなくきれいに整えられてアルバムとしてまとめられている、まさに怪作といえる一枚だなと思いました。
夜の夢『402』(2019)
ギターとドラムのコンビネーションがシンプルながらもかっこよくまとまっているアルバムでした。ギターとドラムの2ピースバンドというのもあってか、それぞれの楽器の演じ分けや音色の変化が多彩でした。ファズの効いた轟音のギターとメロウで柔らかい歌声とのコントラストが秀逸で、それぞれが確立した存在感を示しつつも絶妙なバランスでミックスされていてワイルドな印象ながらもとても聴きやすかったです。インダストリアルでキレのあるドラムの音色も迫力がありますし、女声コーラスとのユニゾンも楽曲に華をもたせていました。全てのアレンジや工程が最小限ながらも最大限の効果を発揮していて、2ピースで楽曲を構成する要素が少ないながらも、そういったものを感じさせないボリュームになっていました。
以上。先月聴いたアルバムのリストです。↓
上半期も終わるということで、あれやこれやと今年発表された作品を色んなとこで探して滑り込みで聴いていった一か月でした。やはりXで音楽聴いてる人のまとめとか紹介してるのが一番新しい出会いがあるような気がします。それでもまだ聴けていない作品があるのですごいですね。そんでやっぱ楽しいですね、いわゆるディグるってやつは。下半期も個人丁に楽しみなタイトルがありますし、まだ認知外の良作もあるでしょう。記事の方も充実させていきたいですね。そんな感じです。
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