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「The SCENIC」アフターレポート(前編)

2024年11月23日。
島根県の西部、石見地方で開かれたイベントにライターとして呼んでいただき、取材のため同行しました。

様々なご縁が巡り巡って今回のお仕事に繋がったのだけれど、お話をいただいた時点で「島根」と「鳥取」を頭の中でごちゃごちゃにしていた私です。
なんなら直前まで、「今度お仕事で鳥取に行くんですよ~」と言いふらしていたくらい。(ごめんなさい)
それなのに何故、オファーをいただいた時点でとてもワクワク・ゾクゾクしていたのか。
それは、イベントの舞台が世界遺産にも登録されている浜田町の畳がヶ浦であったこと。
イベントの目玉として、まだ触れたことのない伝統芸能、石見神楽が披露されるということ。
書く〉・〈旅行〉・〈芸能〉
私の好きなものが三つも揃ったのです。
これはもう行くしかないなと、当日をとても楽しみにしていました。

島根のウユニ塩湖「石見畳ヶ浦」

そこは、広島駅から車で二時間強走って到着する秘境の地。
コバルトブルーの日本海、迫るようにそびえ立つ山々、濁りのない澄んだ空気。
豊かな自然に囲まれていて、初めて来たはずなのに「ふるさと」と呼びたくなるような、どこか懐かしく感じる場所でした。
数日前まで、鳥取と島根を混同していた人間の感想だとは思えません。

雨は降っていなかったものの、この日の海はやや荒れ模様で、サスペンスドラマさながらの臨場感と緊張感が、浜辺に漂っていました。
開けた景色も綺麗だし、波の音も風も気持ち良いのだけど……。
で、会場はどこ?
と思っていると、「こちらですー」とイベントコーディネーターさん。

海沿いの道路を歩いて向かった先に、突如トンネルが出現。この日はとても寒かったのですが、中はさらに空気が冷たく感じました。

長いトンネルの先に洞窟


進むと波の音と重なって、徐々に笛と和太鼓の演奏が聞こえてきました。薄暗い洞窟に、ヒンヤリと澄み切った空気、特有の揺らぎのある和楽器の音色。一歩進むごとに、人知を超えた何者かの領域に誘われるような、どこかおどろおどろしい、不思議な感覚に陥りました。

笛と和太鼓が響く洞窟

洞窟を抜けた先にある会場は、干潮時の浜辺にありました。
「ビーチ」じゃなくて「浜」と呼びたくなるような、ごつごつとした力強い印象の景色でした。
砂じゃなくて、ほとんど岩なんだね。「千畳敷」と呼ばれる広大な岩場。
規則的な亀裂が縦横に走っていて、それが畳を敷いたように見えることから「畳ヶ浦」と呼ばれるようになったそうです。

迫力のあるロケーションに呆気にとられるのも束の間、どこからともなく美味しそ~な香りが漂ってきました。
香ばしくて、刺激的で、でも優しくて……。
朝から何も食べていなかった私の胃袋にとっては、魅惑的すぎる香りが浜中に浮遊していました。

そう。
ここは、一夜限りのレストランなのです。
浜辺には数十卓のテーブルと、石見神楽用の舞台が設営されていました。
客席を挟んだ舞台の対極側に特設調理ブースがあり、美味しそうな香りの出所はそこでした。

一干潮時のレストラン

奉納の舞

予約していたお客さんたちも続々と集まり、それぞれの卓に案内されます。
もうこのロケーションだけでも十分贅沢だよなぁ、と海に沈みゆく夕日を眺めながら思いました。
うっとりしている場合じゃありません。
私には、イベントの一部始終をリポートするという、重要な役目があるのです。

イベントのオープニングを煌びやかに飾ったのは、石見神楽の中でも、港町浜田で大切に継承されてきた演目のひとつ、「恵比須」。
豪華絢爛な衣裳を身に纏い、怒涛逆巻く海を背景に鯛釣りに奮闘するのは、恵比須(えびっさん)としても有名な神 -事代主命(コトシロヌシノミコト)です。

石見神楽演目「恵比須」

私は客席の一番後ろからその様子を見ていたのですが、遠目にもはっきりと伝わってくる熱量がありました。ダイナミックでありながらコミカルな演技に加え、その後景は、なんってったって大海原です。そりゃあど迫力です。事前に石見神楽の全演目の物語について、ある程度リサーチしてはいましたが、前知識がなくても全然楽しめるな、と思いました。

受け継がれる情熱

太古からこの地域に根付いた民俗芸能、石見神楽の大きな特徴は、「伝統を大事にしながらも、時代とともに変化することを受容し、地域ごと、団体ごとにある個性をもつところ」だそうです。

石見神楽大尾谷社中の演者の中には、弱冠二十歳にして芸歴十五年という若手から、一度は地元を出て就職したものの、石見神楽を舞うために地元に戻ったというベテランまで、様々なバックグラウンドを持つ役者が在籍しています。
オープニングを終え、次の出番を待つ演者の方に、突撃インタビューしてきました。

僕たちはみんな、幼い頃から石見神楽を見て育ってきました。子どもにとって石見神楽を舞う役者は、ヒーローなんです。いつか自分も、と思うことはとても自然なことでした。神への奉納の意味はもちろんですが、 「舞いたい」それが最も強い理由です。

石見神楽大尾谷社中

か、かっこいい……!

生活に密着した文化であり、”誰もが楽しめる芸術”を追及した娯楽。
そして何より、演者自身が心から楽しみながら舞うからこそ放たれるエネルギー。
真っすぐな情熱と信念を持って石見神楽と向き合う姿が、眩しかったです。彼らが守り継承し続けているのは、伝統芸能そのものだけではないんじゃないかと、ふと思いました。

贅沢なフルコース

オープニングが終わってすぐ、11品のコース料理の配膳がスタート。
特設調理場から、次から次へと美味しそうなお料理が運ばれます。
石見神楽も凄いけど、このコース料理を手掛ける料理人たちもとんでもなかった。

奈良県にある人気和牛割烹「#肉といえば松田」(ミシュランガイド、セレクテッドレストラン)の増田真志氏。
情熱大陸でも取り上げられた札幌のラーメン店「Japanese Ramen Noodle Lab.Q」 (ラーメンWalker 殿堂入り)の平岡寛視氏。
フランスの「ラ・カシェット」にて修行を積み、2017年コートドール札幌の4代目料理長を務め、北海道特別版ミシュランで1つ星の評価を受けた下國伸氏。
実家の老舗鮨店での14年間修行の後、東京の名店エクアトゥール川島弘子の誘いもあり開催したポップアップイベントは連日満席、福岡県西中州で「鮨ぶんぺい」を開業予定の松尾文平氏。
この日は生憎来られなかったものの、ミシュラン2つ星獲得の実力を持つ「かに吉」の店主、山田達也氏が食材提供に協力。

紹介文だけでも溢れるアベンジャーズ感

山陰浜田港で獲れた新鮮なのどぐろ、「全国和牛能力共進会」で二度も内閣総理大臣賞を受賞したしまね和牛、朝水揚げされた極上の松葉蟹など、こだわり抜かれた地元の食材を使用した創作料理11品が、フルコースで提供されました。

奇蹟のコラボレーション

そして客席の中にはこの日、ゲストとして招かれた俳優・窪塚洋介さんの姿も。

私の頭の中では情報が錯綜し、一瞬はしゃぎかけたけれどぐっと堪え、レポーターとしての職務を全うすべく、鳴りやまないお腹もミーハー根性も、いなしました。

                            -後編へ続く-


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