BAR BEERS & BURGERS
イントロダクション
ミストヴィレッジ拡張区の夜は、波音と涼やかな風が街並みに静けさを運んでいた。壮年のエレゼン族の男性は、少し古びた皮製の鞄を肩にかけ、レンガ造りの建物の前で足を止めた。扉の上に控えめに灯るランプの光が、毎日のように変わらない温かみを醸し出している。その店の名は特に掲げられていないが、彼にとってそれは関係のないことだった。ここはいつもの場所。心を休めるための特別な時間を過ごすための小さな隠れ家だ。
扉を押し開けると、柔らかな琥珀色の光と植物の香りが彼を迎えた。
目の前に広がるのは、赤レンガの壁を基調としたインダストリアル風のバーラウンジ。どこか歴史を感じさせる空間だが、緑豊かな植物や赤いソファがアクセントとなり、重厚さに温かみを加えている。
「いらっしゃい。」
カウンターの向こうから店主の声が響く。ミコッテ族の男性が、磨かれたグラスを手に微笑んでいる。その仕草には慣れた様子があり、毎日営業する店を淡々と切り盛りしていることを感じさせた。
エレゼンの男性は軽く頭を下げ、カウンター席の一角に腰を下ろす。
その足元には鞄がそっと置かれる。鞄の中には、彫金師として新たに始めた仕事道具がいくつか入っているが、今日はそれを使う時間ではない。ただ、彼が隠居して始めた第二の人生を象徴する持ち物として、そばにあることが心地よかった。
カウンター内では、ミコッテ族の女性が店主に話しかけていた。彼女はどうやら店員ではなく、常連の一人らしい。その軽やかな笑い声が、静かな空間に小さなリズムを添えている。それを耳にしながら、彼は自然とカウンターに並ぶボトルに視線を向けた。アルコールを飲む量は控えめになったが、時折楽しむ一杯が隠居生活に新しい彩りを添えている。
「今日は、少し軽めのものをいただけるかな?」
店主が静かに頷き、手際よく飲み物を用意する。その動きは滑らかで、慣れた手つきからこの店が毎日訪れる誰かをもてなしていることが感じられた。
運ばれてきたのは、透明なグラスに注がれた淡い琥珀色のカクテル。
カウンターの柔らかな光が液体を透かし、周囲のボトルや植物がゆらめいているように見える。彼がそっと口に含むと、軽やかな酸味とほのかな甘さが舌の上に広がった。
「いい味だ。」
その一言に、店主は満足そうに頷く。それ以上の会話は不要だった。
彼は視線を窓際に移し、青いステンドグラスから漏れる光の模様がレンガ壁に踊るのを静かに見つめた。
常連の女性が店主と交わす会話の切れ間に、彼女がふと彼に目を向ける。「新しい彫金の仕事はどう?」とでも聞きたげな表情だったが、彼女は何も言わない。ただ穏やかな微笑みを浮かべている。その微笑みに軽くうなずいて応えた彼は、再びグラスに手を伸ばした。
隠居して始めた第二の人生には、かつての冒険者としての忙しさはない。
それでも、この店のように変わらない場所で変わらない飲み物を楽しむ時間が、彼の日常を穏やかに支えていた。
カウンター越しに漂う植物の香りと、赤レンガの壁が生む静かな温かみ。
目を閉じれば、遠い冒険の日々がふっと浮かんでは消えていく。彼はこの空間が持つ特別な静けさに深く息を吐き、もう一口カクテルを味わった。
外の夜が深まる中、店内の灯りは変わらず穏やかに揺らめいていた。
この店は、ただ毎日営業する場所ではない。ここには、訪れる者一人ひとりが自分自身と向き合い、心を休めるための時間が静かに流れていた。
店内の様子
基本情報
BAR[BEERS & BURGERS]
MeteorDC Belias ミストヴィレッジ 3区 拡張アパルトメント 81号室
毎日営業?
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