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ユグドラシルの樹(スノーカフェ)
イントロダクション
エンピレアム拡張区の雪が舞い散る夕刻、薄紫色の空が街並みに柔らかな影を落としていた。広場では白く輝く街灯が灯り、通りを行き交う人々の影を長く引き伸ばしている。暖かな光が雪に反射して、まるで空気そのものが煌めいているようだ。高い塔の上からは鐘の音が静かに響き、遠くからは焚火の煙の香りが微かに漂ってくる。雪に覆われた石畳を歩く足音が規則的に響き、冬の静けさを引き立てている。ひとりの冒険者が、白く息が立ち上る寒空の下、ひっそりと佇む建物の前で足を止める。
目の前にあるのは「ユグドラシルの樹」と名付けられた店。冒険者は、冷え切った指先を握りしめながら扉に手を伸ばした。冒険者は凍てつく山道を越え、たどり着いたこの店に期待と不安を抱えていたが、ほんの少し押しただけで、扉の向こうから柔らかい温もりが漏れ出し、彼を包み込んだ。
扉が開くと、店内に漂う静かな雰囲気が冒険者を迎えた。柔らかな照明が室内を包み込み、温かみのある木の香りが漂う。外の寒さとは正反対の心地よい空間に、冒険者の緊張していた肩が自然とほぐれていく。背後で扉が静かに閉まる音が、外界との隔たりを象徴するかのようだった。
カウンター越しには、店主が静かに立っていた。その姿は店の雰囲気と完璧に調和しており、まるでこの場所そのものが彼のために作られたかのようだった。金髪のボブカットに小ぶりな眼鏡、そして胸元に輝くアクセサリーが彼の洗練された雰囲気を引き立てている。
「ようこそ、『ユグドラシルの樹』へ。」
穏やかで落ち着いた声が響く。店主のエレゼン男性は、知的で冷静な微笑みを浮かべ、視線を冒険者に向ける。その優雅な佇まいは、この空間そのものの一部であるかのようだった。
冒険者は無言のまま視線を店内に巡らせる。高級感のある木製のカウンターと椅子が、中央に設置されている。黒板に手書きのメニューが書かれ、店主の几帳面さを感じさせる。耳を澄ますと、カウンターでカップが置かれる軽やかな音や、微かに流れる静かな音楽が心を落ち着かせた。
店内は既に多くの客で賑わっていた。カウンター席には、旅装を整えた冒険者たちが腰掛け、静かに飲み物を楽しんでいる。彼らの低い声のやり取りや笑い声が、店内の空気に温かさを添えている。革張りのソファには、家族連れらしき客が座り、子どもたちが窓越しの雪景色を指さしながら笑っていた。その隣では、若いカップルが寄り添いながらメニューを覗き込んでいる。
冒険者はその様子を一瞥し、自然とソファコーナーへと足を運んだ。
座り心地の良いソファと、優しい光を放つ照明が、まるで彼を包み込むようだった。視線を巡らせると、時計や飾り棚に置かれた本やフィギュアが目に入る。それらはどれも店主の個性と趣味を映し出しているように見えた。
しばらくすると、店主が温かな飲み物を持って冒険者のそばへ来た。彼の冷えた手元をちらりと見て、そっとカップを冒険者の近くに置く。その動作は丁寧で、細やかな気配りが感じられた。
「どうぞ、身体が温まりますように。」
店主の声は柔らかく、それでいてどこか観察するような視線が冒険者を包む。冒険者は礼の気配を込めて軽くうなずき、カップから立ち上る湯気をじっと見つめた後、静かに口をつけた。コーヒーのほのかな苦みと甘い香りが、彼の心に染み渡る。
店の隅では、数人の商人風の客が地図を広げ、熱心に何かを話し合っている。テーブルの上には温かそうなスープが並び、彼らがこの場所を憩いの場としている様子が伺えた。そのうちの一人が、冒険者の方を一瞬見て、軽く会釈をした。冒険者も視線を返し、わずかに頷く。
2階へと続く階段の上からは、時折かすかな笑い声や、ビリヤードの玉がぶつかる音が聞こえてくる。そこにはどんな光景が広がっているのか、冒険者はわずかな興味を抱いた。地下入口の奥からは、重厚な絵画やオブジェが並ぶギャラリーの存在をほのめかすように、柔らかな光が漏れている。そのどちらにも惹かれつつも、今はこの席でのひとときを楽しむことを選んだ。
カップを置き、ふと外の雪景色に目をやる。窓越しに見る雪の舞う風景と、店内の暖かな光が不思議な対比を描き出していた。この静寂と安らぎの中で、冒険者は自分の次の一歩を思い描いていた。
やがて冒険者は静かに立ち上がり店主に軽く一礼をした。その時、店主は小さく微笑みながら、「またのお越しをお待ちしております」と声をかけた。そして冒険者は再び冷たい外気に身を委ねる。
しかし、心のどこかに「ユグドラシルの樹」の暖かさが残っているのを感じながら、彼は再び冒険の道へと歩き出した。
店内の様子
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基本情報
ユグドラシルの樹(スノーカフェ)
MeteorDC Belias エンピレアム 9-38
営業日
#ユグドラシルの樹
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