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Bar デイジーベル

イントロダクション

夜のエンピレアム拡張区には、静寂が支配していた。薄い霧が街灯の光をぼんやりと滲ませ、冷たく湿った空気が石畳を覆っている。その道を歩く一人の男がいた。寡黙で、名前を知る者はほとんどいない。だが、その目には常に何かを探し求める光が宿っていた。

噂に聞いたBarが、彼の胸に秘めた傷跡を癒してくれるのではないか――そんな期待と疑念が交錯しながら、彼は足を止めることなく進み続けた。

彼は無口で、感情を表に出すことは稀だった。しかし、その鋭い目には常に何かを探しているような光が宿っていた。新たな出会い、あるいは忘れ去りたい記憶を癒す場所。その両方を求めているのかもしれない。

道の先、柔らかな灯りが揺らめく一角に、店の入り口が見えてきた。看板には控えめな文字で“デイジーベル”と記されている。看板の脇に飾られた季節の花の中で、男の目に飛び込んできたのはデイジーの花だった。その白い花弁と黄色い中心の色合いが、かつて見た誰かの笑顔をぼんやりと呼び覚ますように感じられた。彼は無意識に息をつき、わずかに視線を落とした。

男は扉の前で一瞬立ち止まり、目を細めた。その静けさに、ほんのわずかだが心が落ち着くのを感じた。そして、意を決したように扉を押した。


扉を開けた瞬間、柔らかな光と暖かな空気が男を包み込んだ。冷え切った体が解けていくようで、彼は自然と肩の力を抜いた。クリーム色の壁が視界に入り、木の温もりを感じさせる家具が穏やかな印象を与えている。目の端に季節の花が映るが、過剰ではなく心地よいアクセントだ。壁に飾られた扇子や風景画が店内全体に品の良さを漂わせている。

「一日を変え、一生を変えるカクテルを!デイジーベルへようこそ!」

柔らかい声が男を迎えた。声の主はカウンターの奥に立つミコッテ族の女性だった。彼女は長い髪を品のあるピンクブラウンに染め、耳元には可憐な花飾りをつけている。和装に身を包み、赤い羽織と黒い袴の組み合わせが、その優雅な佇まいを引き立てている。

彼女は静かに微笑み、手を胸に当てて礼をした。その仕草には心からの歓迎と礼儀正しさが込められていた。男は無言のまま頷き、カウンター席に腰を下ろした。


「お飲み物はどうされますか?」

彼女が問いかけると、男は一瞬迷うように視線を動かした。カウンターには、珍しいボトルが整然と並んでいる。
その中から一つを指さし、短く「これを」とだけ答えた。

彼女は軽く頷き、手際よくボトルを取り出しグラスに注ぐ。その動作には無駄がなく、まるで長年の修練が感じられた。グラスが彼の前に置かれると、芳醇な香りが立ち上り、彼は思わず目を閉じた。

グラスの中で静かに揺れる琥珀色の液体。香りはほのかな柑橘の酸味と蜜のような甘さが混ざり合い、懐かしさを漂わせていた。男はグラスを手に取り、一口含んだ。その瞬間、記憶の扉がかすかに開いた。過去に置き去りにした日々の欠片が、胸の中に淡い波紋を広げていく。微かな酸味と柔らかな甘味が心に響き、冷え切った感情を静かに解きほぐしていく。

彼はグラスを置き、鼻腔に残る香りを楽しんだ。何かが変わり始めた感覚が、確かにあった。


店内を見渡すと、落ち着いた雰囲気の客たちが目に入った。壁際のテーブルでは学者風の男が古びた本を開き、真剣な表情で読んでいる。カウンターの端には、異国風の装いをした女性が、店主と静かに会話を交わしていた。それぞれが自分の世界を持ちながら、この空間を共有している。

「お仕事でこちらに?」

店主が控えめに尋ねる。彼女の声には無理のない自然な温かさがあった。
男はしばらく考え込み、やがて「まあな」と短く答えた。

「そうですか。エンピレアムは冷えるので、どうぞ暖かくお過ごしください。」

その言葉には、単なる営業トークを超えた思いやりが感じられた。男は軽く頷き、またグラスに手を伸ばした。


グラスを空にする頃には、彼の心は少しだけ軽くなっていた。店内の暖かさと、穏やかな店主のもてなしが、彼の孤独な旅路に一瞬の安らぎを与えていた。

彼は静かに立ち上がり、料金を支払った。そして去り際に、ほんのわずかな声で言った。

「…ありがとう。」

店主は微笑み、手を胸に当てて再び礼をした。

「またお越しくださいませ。」

扉が閉じ、男の姿は霧の中に消えた。だが、彼の心には確かに“デイジーベル”の暖かな記憶が刻まれていた。それは、冷たいエンピレアムの夜を歩む彼にとって、小さな灯りのような存在となったのだった。

店内の様子

店主さん
店内ハウジング
実際の様子

基本情報

一日を変え、一生を変えるカクテルを!
Bar [デイジーベル]
MeteorDC Ramuh エンピレアム 12-55
定期営業:毎週木曜日21:00~
#BarDaisyBell

© SQUARE ENIX


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