Bar「resto」
イントロダクション
エンピレアムの夜は静かだった。
冒険者はフリーカンパニーハウスの一角にある小さな扉を見上げる。
そこに刻まれた「Bar resto」の文字は控えめで、もしもその存在を知らなければ見逃してしまうほどだった。
扉を押すと、温かいオレンジ色の光が冒険者を迎えた。
店内はレンガ調の壁と金属的な装飾でまとめられており、古代アラグ文明を思わせる独特の雰囲気が漂っている。奥の棚には色とりどりのボトルが並び、ボトルに映る灯りが揺らめいていた。空間には静けさが広がっており、蒸気管から漏れるかすかな音だけが耳に残る。
カウンターの中央には、ゴールドの装飾が施された黒い軍服風の衣装を纏うミコッテ族の女性が立っていた。白い手袋を身に着けた腕を組み、視線を正面に向けたまま動かない。帽子に付いたゴーグルが、その威厳ある姿を際立たせている。
冒険者がカウンターに腰を下ろしても、彼女はすぐには動かなかった。
互いの間に静けさが流れる。冒険者は無言で彼女を見つめると、彼女も一瞬だけ視線を向ける。それはほんのわずかな間だったが、十分に意味を持つやりとりだった。
彼女はゆっくりと棚に手を伸ばし、一本のボトルを選び出す。
動作は滑らかで無駄がない。グラスを取り出し、琥珀色の液体を注ぐ。
その音だけが店内に響く。
グラスを静かにカウンターに置いた彼女は、言葉を発することなく冒険者を見つめる。冒険者は軽く頷き、グラスを手に取った。
一口含むと、スモーキーな香りと滑らかな甘さが口いっぱいに広がり、喉を通り過ぎた後に深い余韻を残した。冒険者は静かに目を閉じ、その味わいを心に刻むように息をつく。
カウンター越しに視線を戻すと、店主は再び腕を組み、無言のまま佇んでいた。その表情には何の感情も見えないが、不思議と冷たさを感じることはなかった。むしろその無言の存在が、この空間の静けさと調和していた。
店内には誰もいない。棚のボトルと、水槽の青い光が空間を静かに彩っている。冒険者は再びグラスを口に運び、ピリリとしたスモーキーな余韻を楽しんだ。
「……。」
店主が静かに棚に向かい、別のボトルを手に取る。その動きもまた無駄がなく、滑らかだった。彼女は新しいボトルを差し出すこともなく、ただグラスを洗う音だけを響かせている。その音が心地よく、冒険者は目を閉じてその響きを耳に留めた。
やがて、グラスを空にした冒険者は無言で立ち上がる。店主はわずかに頷き、静かに目を細めた。その短いやりとりに言葉は必要なかった。
扉を開けて外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。背後に扉が閉じる音を聞きながら、冒険者は足を踏み出す。静寂に満ちた空間と、寡黙な店主の存在感が、胸の中に深く刻まれていた。
またここに来る日が来るだろう――そう思いながら、彼は再び夜の街を歩き始めた。
店内の様子
基本情報
Bar「resto」
ElementalDC Kujata エンピレアム 4-4 個室1
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