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組織のすべての箇所が芯になりえる

 「組織がアジャイルになっていくには」この問いに向き合い続けた2022年が終わろうとしている。ソフトウェア開発のアジャイルを手がかりに、組織のアジャイルをはじめ、そしてアジャイルな組織へと向かっていく。その道中、様々な障壁、課題にぶつかった一年だった。

 人とチーム、組織は「アジャイルによって、アジャイルとなる(Be agile by Agile)」そのことを頭に刻み込みながらも、やはり実際においては向かいたいところまでの遠さに、気も挫かれる。

 アジャイルを組織に取り入れていこうとすると、相応の「変化」が求められる。仕事や業務の進め方、事業運営、意思決定の基準まで、営みの隅々にまで変化が寄せられることになる。当然、困惑や摩擦、抵抗と対立も生まれ、いちいち混沌を引き入れることにもなる。

 さらに、その変化の波を単一のチームや部署にとどまらず、広く組織に届けようとしたときどうなるか。さざなみのような働きかけは、至るところの壁にぶちあたり、跳ね返され、泡沫となって小さく消えていく。伝統ある組織の中で、アジャイルな流れは追い込まれ、しぼみ、簡単に動きを止めてしまうことだろう。

 だから、繋げなければならない。経営と、マネジメントと、現場という、組織の構造の上で。そして、組織の営みと場がより良いものとなるように、その状況を作り出そうとする者、チーム、部門同士を。

 組織の伝統的な力学と、これまでの常識によって、一つ一つの変化が潰えてしまう前に、組織の中の「繋がり」を張り巡らせる。個人の思いだけではなく、チームや部署の方針として組織アジャイルを取り組んでいく。さらにはチームや部署の単独の施策ではなく、経営の意図を具現化する「組織ミッション」として取り組んでいくようにする。
 こうした「意図」「方針」「実行」の連鎖が、「なぜ、アジャイルなのか」というWHYを強固にしてくれる。

 こうして考えていくと、組織が変わる芽、芯がどこに生まれるのか、という問いへの答えも見えてくる。アジャイルの「回転」を始める場所であればどこでも芯になる。経営でも、マネジメントでも、現場でも。個人でも、チームでも、部門でも。つまり、組織のすべての箇所が芯になりえる、と。
 ただ、一つ一つの芯をそのままにしておいても、その回転は組織を変えるまでには至らない。一つ一つでは、組織全体を蓋するまでにはいけない。だから芯と芯を繋げることで、回転のちからを高め、かつ遠くへと伝わることを狙っていく

 さて、ここから先だ。もう一歩、組織アジャイルへの挑戦を進めよう。

 芯となる者たち、経営から現場までの思いと実行を繋げられたとする。それは命運をかけた特別プロジェクトのていを取っているだろう。あるいは、特別な組織体の立ち上げになるかもしれない。
 いずれにしても、いよいよ回転のかみ合わせが否が応でも強靭となる「動ける組織体」が作れたとする。そこで、あらたな局面を迎えることになる。

 経営と現場の一致が高まると、それぞれの回転速度が合わず、振り切られるところが出てきてしまう。経営、マネジメント、現場で、情報と認識の解像度は異なる。上層ほど抽象度が高くなり、現場の担う詳細さとは簡単に合わせられない。
 そうした不一致のなかで、さらなる回転を得ていくと、やがて上層からの方針変更についていけない(すなわち現場が振り回される)、現場での実践結果が上層にフィードバックしても受け止められない(すなわち関心がずれている)、という事態がおきうる。

 誰もが「良かれ」と思って考え、取り組んでいることが一向に協和せず、かえって多大な負荷を招いてしまう。事態の上手くいかなさに、互いの疲労と不安は募り、場合によって不信にも至る。

 どのようにしてこの不一致を乗り越えて行けばよいのか。

 回転速度の異なるところに、バックログを置こう。互いの関心を重ね合わせられるもので可視化する。経営とマネジメント、マネジメント現場、それぞれの間の関心を見えるようにしたバックログはあらゆる意味で緩衝材になる。
 今何に取り組んでいるのか、何に取り組むことでアグリーしていたのか、バックログが物語ることになる。そこには何を優先するべきかも現れている。お互いの関心に基づく回転速度の違いを、バックログという「記憶」によって調節していく。

 経営も、マネジメントも、現場も、それぞれがこれからの組織の「芯」だ。ただ芯を合わせようとすると、その回転が持つ遠心力によって、どこかが振り切られる。だから、バックログによって、速度の違いを吸収させる。
 そのとき、組織のバックログとは互いの関心が重なりあった「希望」そのものになるだろう。一つ一つの変化への期待を、バックログから取り出し、組織に実装していこう。

(本稿はシン・アジャイルAdvent Calendar 25日目として書いている)



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