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変化の手がかりを、その組織自身の「過去」から得る

 10年近く前の話。ある企業からお声がけをもらい、幹部に向けて「アジャイル」について説明したり、質疑応答したときのことを思い出した。よくある "情報交換" で、特段の内容がその会話にあったわけではない。その会合は結果的には、何にも繋がらなかった。その組織がその後アジャイルに乗り出した、なんていうことも耳に入ることはなかった。

 幹部の方は「アジャイル」に懐疑的だった。その会合の中で、アジャイルに関する理解の上での溝をどうにか埋めたいというのが会を設定した人の思惑だったはずだ。
 しかし、1時間程度の会話で埋めるには溝が大きすぎた。10年、20年かけて醸成してきた「これまでのスタンス」とは明らかに交わらない考えをそう簡単に受け入れられるはずもなかった。私のほうにも、その溝をどうにかする手立ては当時はまだ不足していた。

 よくある話だ。10年も前の頃には特に。何も生み出せなかった、とある接近戦の記憶。

 ふと、この会合のことを思い出した。10年が経過して、状況は様変わりている。日本の組織にはDX、組織変革が必要だという流れができ、コロナ禍によってそれは確固たるものとなり、さらにChat GPTによって後戻りがなくなったと言っていい。そして、そうした組織変化の芯に「アジャイル」の存在が芽生えてきている。

 もし、10年前に、あの会合で件の幹部が「アジャイル」に舵を切っていたならば、今どうなっているだろうか。

 もちろん、ごく初期段階で挫折したり、途中で終わったり、結局ものにならなかったりと悲観的なケースをいくつも想像できる。ただ、「可能性」としては逆もありえる。
 エンジニアリングが変わり、事業との協働関係が進む。その結果、いち早くサービスのオンライン化が手掛けられ、コロナが始まるとっくの前に、デジタルに移行できていたかもしれない。そうなれば、コロナという脅威は機会へと転じていたかもしれない。その上で次の段階を向かえられる組織と、今をもってしてもデジタル化で四苦八苦している組織とでは、その先においても雲泥の差がある。

 ただの「たられば」にすぎない。それでも、と思う。
 もし、あのとき組織としての意志決定に多大な影響を与えるポジションの幹部が、別の判断を取れていたら。幹部、ミドル、経営人材。こうした「役割」の方々は、歴然、組織の命運を握っている。
 聞き慣れないワードや、自分の背負ってきた「これまで」からすると受け入れがたいことを、どのあたり手前で処理するか。耳目にすら入れずスルーするのか、最初から「否定」のための根拠を考えるのか。
 その判断は、組織の「今」と「これから」に向けて本当に妥当と言えるのか。決して、自分だけの「これから」なのではない。数百、数千、数万人の組織の中の人々の「これから」に関する話なのだ

 長いこと、この手の仕事をしてきたおかげで、そんなことを思うようになった。いわば10年がかりの検証結果だ。

 このままの先で起きうる「最悪の事態」を示すことで、そうならないための行動を促すための方法として「ホラーストーリー」がある。一方で、これまで既に踏んできてしまっている不都合な事実に向き合うことで、これからを変えるための手がかりを得ることもできる。
 組織が過去積み上げてきた、変化しそうでしなかった、できなかった事案から、その判断の事後検証を行う。われわれは組織のifからも学ぶことが出来る。


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