MVP vs ホールプロダクト
「このプロダクトはまだMVP(Minimum Viable Product)なので、作り込みしていないし、機能も足りているわけではない。でもそういうもんでしょ」という感覚は、危うい場合がある。
何度も何度も繰り返し聞かされ、とりあえずこれだけ言っておけば最もらしく聞こえてくる「小さく始めよ」は、MVPの戦略として基本だ。この言葉は正しい。仮説を作り込むのは世の中に問うてからだ。多くの場合、諸般の事情、背景、勢いから、ムダなものを作りすぎてしまう。そのMVPが検証の段階のものならば、だ。
公開するMVPが、検証のためのものなのか、それとも市場投入向けなのかによって、方法は変わる。未検証の新しい体験とMVP戦略は合致するが、既存体験のカイゼンや世の中に代替手段があって「同じ価値」で勝負する場合には、ホールプロダクトかどうかが問われる。これは顧客の期待のよる影響が大きい。
ホールプロダクトとは、完全なる製品のこと。顧客の期待と、製品の機能性とのギャップに焦点をあててきたのはセオドア・レビット博士であり、ホールプロダクトの概念も博士によるものである。ホールプロダクトのイメージと、MVPの関係は、「ぶどうの房」のようだ。
プロダクトの市場投入というのは、貴重な機会と言える。「はじめてのお披露目」はもちろん、そのプロダクトにとっては1度しか訪れない。はじめてはアテンションのボーナスがつきやすい。その機会を上手に利用する必要があるのは言うまでもない。
ところが、顧客(市場)にとってはその公開されるプロダクトが実験なのか、検証なのか、背景に関心はなく、提供されたものをそのまま評価することになる。このとき、製品の狙いが、「既に世の中にある価値をより上手く実現しようとしたもの」といった場合には、受け取る側も、これはなんだ、何を比べたらよいか、が想起可能であり、当然比較する。世の中に既にホールプロダクトがある場合、ここで勝負にならない。
一度、そのタイトル、そのプロダクトに見切りをつけてしまった顧客に、1ヶ月後の「アップデート」、2ヶ月の「アップデート」をいくら繰り返したところで、見向きしてくれるだろうか? そう考える根拠をもたなければならない。「MVP戦略」は、根拠には立ってくれない。