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プロダクトオーナーを支える「プロダクト参謀チーム」

 プロダクト作りでまず迷うのは、どんなチーム体制であるべきかだろう。いくつかのパターンがある。

(1)プロダクトの企画者自身が一人だけ立つ。
(2)テーマのドメイン領域に詳しい者が複数人立つ。
(3)POは明確に一人立ち、ドメイン知見者が複数人入る。

 「(1)プロダクトの企画者自身が一人だけ立つ」は、代表的なケース。POはプロダクトチームに一人だけ置く。POを複数人すると、方向性が曖昧になったり、意思決定に時間もかかる。
 企業内新規事業だろうと、スタートアップであろうと、そもそも企画者以外に人が張れないという実情もある。POは実に一人で多くのことをこなさなければならない。まさに会社を立ち上げたCEOの如く。
 その稼働量はスクラムイベントにも及ぶ。POでありながら、スクラムイベントに参画する時間が十分に取れない、といった本末転倒も起こりうる。「プロダクトオーナー代行」なる方便も生まれる。
 むしろそうした支援者、支援体制を作れなければ、プロダクト企画・開発はかなり苦しいものになっていく。やはり、一人の知見で戦い抜けるほど簡単ではない。

 「(2)テーマのドメイン領域に詳しい者が複数人立つ」は、アンチパターン。組織によっては、知見者リソースに余裕があり(3〜4人くらいはれる)、「POチーム」のような体制を取る場合がある。
 もともと組織が得意としてきたドメインの延長線で新たな企画を立てる場合などに、こうした状況が起こりうる。昔から勝負してきたドメイン領域だけに知見者リソースに厚みがあり、企画体制の強化のために取られる。
 船頭多くして、はだいたい皆が思うところなので、一応POリーダー的な役割を見出しはする。しかし、実体としてはベテラン揃いの体制下で、逆にリードを取れる者がおらず、迷走する。いくつか例をあげてみよう。

・テーマ背景においているドメイン知識は深くても、技術的に体験的にビジョン的に浅く、よくある企画になってしまっている。企画検討のディメンション(次元)が足りない。

・外部のケーススタディが足りず、既に世の中にある企画の焼き直しになっている。

・逆にケーススタディを行った上で、コンセプトをそのまま持ってきて「テーマの詳しさ」や「コスト」、「システムの使い勝手」といった苦し紛れの優位性で押そうとしてしまう。

・ドメイン知識が豊富なだけに、やけに細かいところでの掘り下げがあり、そこの意見調整に不用意に時間をかけている。多大に時間を投じている割にはアウトプットが浅くなっている。

 「(3)POは明確に一人立ち、ドメイン知見者が複数人入る」が、理想の布陣と考えられる。ドメインについて全く知らないと言葉が解せず、相応の苦労が伴うため、出来ればドメインについては知っておいて方が良い。しかし、POはむしろ他の領域に強みがあるほうが面白い企画になりうる。
 何らかの得意な技術ある(メタバースに詳しい、DAOに詳しい、5Gに詳しいなど)、ユーザー・エクスペリエンスへの知見がある、あるいは特異なビジョンが語れるなどだ。こうした点で強みを持つPOが「ドメイン知識のあるメンバー(ドメインエキスパート)の協力を得る」という構図を作る。
 このときドメインエキスパートは複数人居た方がよい。ある人物の経験に偏らないように、ドメインエキスパート間での創発を期待して。ドメインからの様々なアイデアや、ネガティブチェック、実現性について意見やフィードバックを挙げてもらうようにする。POはとにかく手が足りなくなる。手分けして実地の調査、検証にも動いてもらう。
 こうした壁打ちを想定顧客とも勿論行うが、チーム内に壁が設置できると企画錬成の速度が圧倒的に上がる。ドメインエキスパート自身の知見が頼りになるのと、こうした人たちは「業界を歩くための案内人役」となる。人脈を活用し、顧客インタビューを効率よく実施したい。
 なお、ドメインエキスパートは社内人材である必要はない。外部からコンサルタントなどを調達しても良い。その稼働もフルである必要もない。ただし、汎用的なコンサルではなく、ドメインについて確かな経験を有する者をアサインすること。実地の壁打ちが出来れば良いので「業界の著名者」などに手を伸ばすも不要。かえって時間がかかったり、余計なコストにもなりかねない。

 技術的、体験的、ビジョン的に特異なPO一名と、経験豊富なドメインエキスパート複数人による布陣。さしずめ「プロダクト参謀チーム」とでも言うべきか。スペースまでイメージに入れると「ウォールーム」に近い。今ならmiroなどのホワイトボードでウォールームを再現しているチームも少なくないだろう。


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