見立てる、整える、倒す。

 先日、人前に立って長時間話す機会があり、それが終わってからの質疑応答で今までには無い質問を受けた。使う言葉が変わっているという。

「あまり開発では使われない言葉を使われますが、意図があるなら教えて下さい。」

 さまざまな質問を受けてきたが、これは初めてのことだった。だから、印象に残っている。具体的には、

・見立てる
・整える
・倒す

という言葉が「使われない言葉」として挙げられた。

見立てる

 見立てるは、「何か対象があって当事者たちなりの解釈でもって説明できるようにする」という状況にあてはまるときに使っている。例えば、見積もりとか。

 「見積もる」という言葉は、私はほとんど使わない。なぜなら、「見積もる」「見積もり」はあまりにも開発で使われる言葉のため、どちらかというと従来からの見積もりのイメージで、負の側面が際立ってしまう可能性がある言葉だと思っている。例えば、「見積もりしたのだからそれに必ずコミットメントしなければならない」という捉え方だとか。

 そう捉えてしまうと、これからやることに警戒感を持たれてしまう。警戒感があると、当事者たちの判断が不本意に曲がっていってしまう恐れがある。だから、人によって従来からのイメージで負の捉え方をする可能性がある言葉は出来る限り使わないようにしている。あくまで可能性。だが、その可能性がある限り、落としておくために最初から使わない。

整える

 整えるは、「目的に適した準備を行う、状況に適するように状態を揃える」という意味で使っている。だから、チームビルディングを指すこともあるし、何を作るべきかの理解を揃えるときにも使うし(バックログリファインメント)、計画づくりのときにも使う。

 これは、あえて言葉の境界をぼやかすために使っている。チームビルディング、バックログリファインメント、計画づくりと具体的に言ってしまうと、「限定的な行為」でこれからやることのスコープを捉えてしまって思考や行動に広がりが出ない可能性がある。

 明確にタスクに落とし込んでしまうと、「そのタスクを倒しさえすれば良い」「今までそのタスクを倒してきたやり方ありき」になってしまう恐れがある。これはもったいない。先程の言葉とは逆に可能性を拾い上げることができない。

倒す

 倒すは、分かりやすい。「目標をより際立たせたい、それによって人や行動に勢いを与えたい」ときに使っている。例えば、タスクを倒す(さっき使った)。〜をやっつけるという言葉は昔からあるから、他の言葉に比べると違和感が少ないかもしれない。ただ、「やっつける」には人によって負のイメージの可能性があるので、使わない。

選んだ言葉はその人自身を表すもの

(負の)可能性を落とすための言葉(見立てる)。
可能性を拾い上げるための言葉(整える)。
人や行動に勢いを与える言葉(倒す)。

 正直言って、普段使っている日常語の意味をきっちり言語化したのは初めてのことだ。自分の説明にとてもしっくりくる笑 それだけこの言葉に自分なりの馴染みがあるということだろう。

 このように言葉には使いようがある。同じような意味に捉えられそうでも、使う言葉によってその人自身の考え方を示すのにも開きが出てくる。ひいては価値観にも繋がる。大事にしたい。

 ちなみにこの言葉の面々を改めて眺めてみると、昔の師匠の影響が大きそうだ。大事な言葉は人に刻まれるものなのだろう。

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