ハンバーガーとの再会が、人生のすきまを埋めてくれる話
最後に食べたのがいつだったのか、結局思い出すことはできなかった。
会社をお休みして受けた生活習慣病検診は意外に早く終了したので、お昼の時間までには随分間が開いてしまった。朝食抜きのお腹を抱えて帰宅するのももったいない気がしたので、小腹を満たそうと検診センター近くのショッピングセンターに立ち寄って飲食店を物色。
ちゃんとしたレストランでがっつり食べるわけにはいかないので、多すぎず少なすぎず、といった都合のいいの量のものはないかと探していたら、見つけたのはハンバーガー。
若い頃は月に何度も食べていたはずなのに、トシを重ねるごとに足が遠のいていつの間にやらぱったり行かなくなっていた。
テープで閉じられた紙を開いて、顔を突っ込んでかぶりつく。
うん、昔から全然変わっていない。懐かしい味。あのピクルスもちゃんと入っていた。ハンバーガーでしか食べたことのない、あのピクルス。
てりやき、でも、チキン、でも、ソーセージ、でもなく、プレーンハンバーガー。
コンビニで売っているハンバーガーとは、何かが違う。そう、バンズがしっかりしていないんだ。パティが主役だからね、といわんばかりのしなしな感。
高級なお肉を使ったレストランのハンバーガーも、なかなか手が出るものじゃない。値段に見合ったいい食材が使われているんだろうけれど、食べるのに勇気のいるハンバーガーは、ハンバーガーじゃない。
友だちとたわいのないおしゃべりをしながら。
パソコンをひらいて仕事のメールをチェックしながら。
健康診断おわりに、道をゆく人々をぼんやりと目で追いながら、
ほおずえをついて片手でかぶりつく。
そういう場面に違和感なくとけこんでくれるのが、ハンバーガーなんだ。
もう何年も口にしていなかった。
多分、もう一生食べないだろうなと思っていた。
まさか、こんなちょっとした時間のすきまで再会するとは思わなかった。
普段の生活の中にハンバーガーが割り込んでくる余地はなかったから。
次に出会うのは、またずいぶん先になるんだろう。
でも、同じような時間のすきまができたなら、きっと一番に頭に浮かぶのはハンバーガーにちがいない。
あと何回あるかはわからないけれど、せっかくだから残りの人生でまたハンバーガーとのお付き合いを続けてみようか。
てりやき、でも、チキン、でも、ソーセージ、でもない、プレーンなハンバーガーが、手持ちぶさたな瞬間を埋めてくれるその時を期待して。