贅沢な時間
東急東横線の白楽駅西口を出ると、正面を横切る綱島街道(旧道)があって、ほぼ正面に、僕が高校生の頃は「白鳥座」という映画館だったところが今はドトールと銀行になっている。
今は知らない人に方が多いだろう。
旧綱島街道を西口から横浜上麻生道路まで、ゆるやかに下っていく間は二階建てか、あっても低層伸びるが続く商店街だ。旧綱島街道の一本裏側も細い路地の両側にも小さな商店が並び、しばしば「闇市から」と例えられる。でも、実際はご近所にある神奈川大学の学生消費とともに隆盛になった商店街らしい。僕が現役の頃から神奈川大学には「地方出身者」が多いという印象があり、そして、神奈川大学はけっこうデカい。そういう学生さんたちが愛たんだろう。でも、今は、そうした学生さんたちも下宿に篭ってしまって、なかなか街に出て来ないんだと、食堂の親父さんが。
そういうわけで、商店街にも往時の勢いはないけれど、空き店には若い人たちが起業していく。みなさんが個性的で、家系のラーメンのように良くも悪くも「濃い感じ」。淡麗ではないが、たぶん常連になったら、たまらん「あたたかさ」を持ったお店が多いんじゃないだろうか。都会にあっては、どこか土の香りを含んだ親しみやすさもある。
一方、西口を背に右手に旧綱島街道を妙蓮寺方向に行くと、「都会的」の方向にマス(大量生産・大量消費)を離れたお店が多くなっていく。もちろん「街づくり協定」なんぞできっちり分けたわけじゃないけれど、妙蓮寺に向かって土臭さとファンキーさは希釈されて、いい頃の南青山あたりにあった雰囲気を醸し出しているお店が多くなる(今の南青山じゃなくて1970年代頃の)。僕は珈琲を焙煎するいい香りに誘われながら、ファッションや文化芸術を得意とする古本屋に、しばしば。しばらく会話を楽しませていただいて、さらに散歩を続ける。
そして、妙蓮寺駅近くには、昔ながらの白い食パンが美味しいパン屋さんと、バゲットをはじめとしてハードものが抜群のパン屋さんがあり、本格の蕎麦屋さん、ありがたいことに「街の本屋さん」もある。
妙蓮寺駅近くには古民家cafe的なお店も複数あるようだ。もちろん、郊外なニュータウンにもこういう感じ、なくはないんだろうが、整備された四角いデカい街区とは異なり、ここは等身大、ソリッドとは無縁。
たったの「一駅散歩」にも街は個性を滲ませる。白楽駅西口を背に右に行くか、左に行くかで大違い…もちろん、大倉山駅周辺にも、元住吉駅周辺にもこういった個性はあり、また、その個性も狭い範囲で猫の目のように変わるもの。
ごちゃごちゃ感の魅力が残っていれば、そこは「街」だから。特に大都市はそう。
再開発で仕立てられた街は、ごちゃごちゃ感とは無縁。キレイに整えられて管理者がいる。つまり、校則に縛られた学校のようで、街並みは制服を着ることを強制されているよう。
でも、「みんな」と一緒が好きで「ノー・ストレス」で便利が一番となれば、街は、どんどん漂白されていく。
みなさんも、たまに…でいい。実際に脚を運んで「これは」と思うお店、街を応援してあげてください。このままじゃぁ、どこもかしこもがカオナシの街。外国からの観光客のみなさんはいく場所を失っちゃっうだろうし、札幌に行っても、大阪に行っても「無印良品」とスタバっていう状況は、長い目で見れば、あまり歓迎すべきことではないと思う。
ごちゃごちゃの街にいる時間を「贅沢な時間」にしちゃいけないんだ。実際、僕が子どもの頃は、それで当たり前だったからね。