世襲とエスタブリッシュ
子どもの頃。歌舞伎の世襲は、ただただ「民主的ではない」みたいにとらえていた。
幼い。ああバカだったなと思う。
当代一代の人生は短い。何代にも渡って磨かれ、熟成された奥深い技芸となると、その芸を受け継ぐだけでも難しい。だから、こうした技芸を生まれたその時から見て聞いて体験ていくしかない。高校出てから「磨く」では遅いこともあるんだと思う。
アンダーグラウンド出身な麿赤兒さんの息子さんが、大森立嗣監督と、大森南朋さんだということも偶然ではないだろうし、柄本明さんの息子さんがおふたりとも俳優さんだったり、奥田瑛二さんの娘さんが、やはり映画監督さんと俳優さんだということも偶然ではないでしょう。それも「親の七光り」的な「コネのあるなし」の話ではないことは、みなさんの作品や演技が明確に物語っている。
(坂本龍一さんの父上が「伝説の編集者」だったことも、坂本さんという音楽家と無縁のものではなかったのでしょう。坂本龍一さんの自伝にある「父親の本棚」がハイブロウです)
一方、政治の世襲は、技芸ではなく「利権」の世襲という場合が多い。つまり、政治家個人の政治力を踏襲していくのではなく、周辺を含めて、彼らの「利権」の温存を望むもの。だから世襲の政治家個人は「担がれる神輿」である場合も少なくなく、実力としては疑問符がつく場合が多い。
これ「世襲」の悪い事例。
だだね。
ホントの政治力、特に外交力ともなると「世襲」も違う側面を見せ始める。
かつて
細川さんが首相だった頃、新聞は、彼を「殿様」とあだ名した。
肥後熊本藩細川家18代目の当主だったからだが、この細川家、ただ「藩主」の家だったというわけではない。
彼の家は、室町末期からのエスタブリッシュ。しかも「古今伝授」ができる名門中の名門だし、武家エスタブリッシュの作法である室町幕府の有職故実を知っているのは、当時、細川さんの家だけ。
武家文化にあっては、成り上がりの「なんちゃって武士」ではなく、武家の中の武家の家。
しかも、明治維新も乗り越えて「侯爵」、明治以降は欧州の名門とも交流し、国内の人脈だけでなく、海外にも広い貴族人脈があって独自の外交力を持ってもいる。今は、この国きっての名門=近衛家の当主も血筋としては細川さん家の人。だから、ひとりでも、国策に効果的な根回しができる。
つまりエスタブリッシュ、特権階級級。
どんなに学業優秀な人でも、彼らみたいな家に生まれついた人からみれば「勉強しかできない子」(彼らはそんな下品な考え方しないだろうけれど)。でもね。実際、敵わない。彼らの影響力を除去するにはタイムマシンがいるから。
小泉さんの家には、織田信長の頃、朝廷と武士との間を立ち回り、関ヶ原で彼らを救った縁から近衛家と昵懇な薩摩との縁がある。
(だから反原発で細川さんと小泉さんがタッグを組むのは何となくわかる)
河野さんちも貴族ではないが鎌倉時代から一所懸命の豪族だ。僕らがあまり知らないだけで、こういう「中世以来」の家が全国各地に点在し、政治にも経済にも、それなりの影響力を発揮している。
繰り返すけど、初代で敵う相手ではない。
お金じゃないから、いくら積んでもダメ。
竹中さんやスガさんが、維新さんを仕掛け、国民新党さんを仕掛けたのも、こういう「ガラスの天井」を見ちゃったからなんだろうな。
貴族がいないアメリカ合衆国では、ガラスの天井を見るのは女性大統領候補かもしれないけれど、この国には決して短くはない歴史がある。
イチゴ農家の息子で、学業でも、そこまで優秀じゃない人となると、根回しの達人といっても、観音様の手のひらに上を飛んでいる感じ。
竹中さんも、こんなに努力したのに「勉強しかできない子」だから。
(維新さんの地方議員や地方組織の幹部には、エスタブリッシュを目の敵にしている人が少なくない。それで下剋上って盛り上がっちゃってる感じ。成り上がりを含めて、そういう志向の人を集めてるんだろうな。欧州なんかだと大統領で「ミドル」なんだけど、大統領がてっぺんだと思ってるんだろうね)
でも、ガラスの天井の上の人たちに敵わなければ「市井の人気」なんだけど、なぜか、特に維新さんは、その辺が苦手。で。ゲッペルス的な洗脳策に逃げたんだろうけれど、今はマスメディアに情報発信を一元化することもできないからね。難しい。洗脳が完遂する前に、オラオラ系な自分たちのハラスメント事案をSNSに暴露されちゃったり、ちょっとおとぼけ。
(だから、たぶん成就はしないだろうね。勢いがあったとしてもピークで沈むと思う。今度の万博を契機にしぼむかもしれないし)
それに、仮に天下をとったとして「外交」をどうするんだか。その段になってエスタブリッシュに尾っぽ振ったとしても、それじゃあ「いっしょに下剋上しようぜ」って釣り上げた役者さんたちが離れちゃうでしょう。
太閤秀吉も、関白になれたのは「近衛家」の養子になれたから。「豊臣」は天皇から下賜された「姓」。
つまりね。成り上がりの象徴のように言われる秀吉でさえ、この国のエスタブリッシュだけは敵に回してないんだ。徳川家康が征夷大将軍になって江戸に幕府を開いたのもエスタブリッシュからは少し距離を置こうとしたからなんだろうしね。
鎖国も、外交苦手なの解っていたからだったりしてね。成り上がりは、ホントの国際情勢に疎いから。冷静な彼は自分を見極めていたんだろう。