ブレーメン通りで「食べる」ということ
元住吉・ブレーメン通り商店街「鉄重」
このお店の魅力を、いわゆるグルメ・リポート的な感じに伝えるのは難しいことだ。「溢れ出る肉汁が…」的な描写は、もうそれだけでこのお店の魅力を矮小化して語ることになり、語っている僕が残念だ。
「鉄重」さんの魅力は、まずお店の中に漂っている「美味そうな匂い」だ。肉を焼く匂い。上質な油の匂い…それでいて店外には、ほとんど匂いはもれていないから、ドアを開けたとたんのワクワク感がたまらない。
そして、このお店に集まっているお客さんたちの雰囲気。カップルも、親子連れも,みんな仲良さそうだし、楽しそうだ。
しかも「傍若無人」感はゼロ。お客さんがホールさんに気を使う余裕を持っている。もちろんホール係さんたちも機転を効かせながらテキパキとお客さんの希望に応えていく。そして、彼女たちには「お仕着せ」感がなく、それぞれに個性的。マニュアルで動いている感じがまったくない。
まず、こういう「場所」としての魅力は、チェーン店みたいなものには絶対に創り出せない魅力。組織的に運営されているチェーン店では、ホールさんも厨房さんも、それぞれに個性を発揮することはできない。それを許せば、組織は組織でなくなるし、それゆえに、お客さんもチェーン店に人間的な交流は望んでおらず、物理的な空間の利便性とリーズナブルな値段の料理が出てくるかどうか。それだけで店を選ぶ。
そして、こういう「雰囲気」こそ、お店だけでなく、お店と、お客さんの共同作業。
つまり、ね。
出される料理だけの魅力でもないし、厨房さんやホールさんたち=お店側だけが魅力的なわけでもない。ここに来るお客さんや元住吉のブレーメン通りあたりの街の雰囲気…その全てが相乗効果になっての魅力。
「組織」じゃ無理なんだ。原価率を、一生懸命に計算しちゃうような、ビジネス至上主義のお店でもダメ。
商店街の個人経営のお店は「産直の野菜」みたいなもの。不動産ビジネスな中間搾取な部分を除いてあるから、安くて美味しい。中間搾取な部分を除けば、空虚な組織運営をしなくても価格がつくれる。人間的なぬくもりがある「場所」としての魅力にも満たされていく…
たぶん、牛丼屋さんだって、個人経営で「いつものおばちゃん」がいるような店だったら、あんなに寂しい場所にはならないんだろう。
「鉄重」さんは、お客さんとお店の距離感も抜群でね。あっちこっちでジュージューいってるなかで、どのテーブルも和やかでね。それでやさしい味のハンバーグなり、ステーキなり。実に庶民的な価格で、こんなに贅沢と。いつもうれしくなって帰ってくる。
有難い。
そして今や絶滅危惧種の「街」らしい「街」
元住吉・ブレーメン通り商店街にも感謝。
もちろん、だから「鉄重」さんだけじゃないんだ。