脳と体が創発する心:意思決定のメカニズムを探る


はじめに

私たちは日々、数多くの意思決定を行っています。朝食に何を食べるかという些細なことから、就職や結婚といった人生の重大な選択まで、人生は意思決定の連続と言っても過言ではありません。しかし、この「選択」という行為は、実際にはどのようなメカニズムで行われているのでしょうか?

名古屋大学大学院環境学研究科の大平英樹教授による講演「心のデザイン:心を創発する脳と体-意思決定するのは誰か-」では、この興味深い問題に対する最新の研究成果が紹介されました。本記事では、その内容を詳しく解説し、私たちの意思決定のプロセスについて深く考察していきます。

1. 意思決定とは何か

まず、意思決定の定義から始めましょう。意思決定とは、複数の選択肢のうちから1つを選ぶことです。私たちの素朴なイメージでは、「私」という実体を持った心が選択肢の価値を決め、その中から1つを選びとるというものかもしれません。

しかし、心理学ではこの「心」や「私」という概念をさらに深く掘り下げようとしています。従来、意思決定は主に経済学の分野で研究されてきました。標準的な経済理論では、人間は合理的な存在であり、可能な選択肢の価値をそれぞれ計算して、常に最適な選択をするとされていました。

2. 行動経済学からの新たな視点

しかし、この仮定は行動経済学という新しい分野から批判を受けることになります。人間は神様ではないので、常に合理的な選択ができるわけではありません。むしろ、しばしば合理性から逸脱した選択をすることが、多くの実験で示されてきました。

行動経済学の書籍では、「経済は感情で動く」というキャッチフレーズがよく使われます。これは私たちの直感にも合致するものですが、ここでいう「感情」とは一体何を指しているのでしょうか。それは怒りや喜びといった基本的な感情ではなく、もっと漠然とした、私たちの心の背景にある色彩のようなものを指していると考えられます。

3. 感情理論の歴史

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