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【英文記事和訳】クルスク:航空基地への攻撃に備えるロシア(Frontelligence Insight 2024.11.19)

ウクライナ軍元将校Tatarigami氏(*注:ハンドル名)が設立した戦争・紛争分析チーム「フロンテリジェンス・インサイト」が、ATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)のロシア領クルスク州内への限定的使用がもたらす影響に関する分析記事を、Substackに投稿しています。

以下は、この英文記事の日本語訳になります。翻訳記事中で使用した画像は、フロンテリジェンス・インサイトの記事原文から転載して使用しています。また、[  ]内の記述は、訳者による補足等になります。


日本語訳

ウクライナがロシア領内の目標を攻撃するのに、米国製の長射程ミサイルを用いることを、バイデン大統領が承認したという報道が、ニューヨーク・タイムズ紙によって最近されたことに伴って、このことがもたらす戦場での影響と、ロシアの報復対応の可能性に関する議論が、再び巻き起こっている。

10月に発表した私たちの報告で説明した通り、ATACMSの射程圏内にロシア軍関連の兵站・軍事目標が複数、存在している。それにはクルスク州内の航空基地も含まれる。ここは近接支援航空機、ヘリコプター、UAV[無人航空機]の拠点になっている。

米国の報道があったのがたった一日前[*注:記事原文は2024年11月19日公開]であるとはいえ、事実確認されている情報が示しているのは、ロシアが10月上旬からすでに航空基地の防御強化と拡張を進めており、それは今も続いているということだ。衛星画像に基づいて私たちが分析した結果、航空機用掩体壕の新たな建設が進められており、航空基地におけるジェット航空機収容能力が強化されている。

クルスク・ヴォストチニ空港(ハリノ航空基地)
ロシア領クルスク州
緑色点線枠 - 航空機用掩体壕
黄色点線枠 - 建設関連車両
日付:2024.10.22
座標:51.7587255, 36.2887901
© Frontelligence Insight

ここでの変化は、2022年にこの空軍基地の同じ地点を撮影した画像と比較すると、目に見えるかたちで明確に分かる。この新たに建設された掩体壕の防御効果は限られたもので、特に破片と爆風に対する防御である。その目的は、ミサイル/ドローン攻撃の爆心の周辺におけるダメージを最小限に抑えることにある。

クルスク・ヴォストチニ空港
ハリノ航空基地、ロシア領クルスク州

建設場所にコンクリート・ブロックが置いてあることから、掩体壕をさらに強化する取り組みが進められていることが示唆される。衛星画像によって、既存の構造物に新たにコンクリート・ブロックが付け加えられ、新たな防御層が加わっていることが分かる。ロシア軍が屋根状の覆いを加えるつもりなのか、それとも掩体壕の壁部分の強化にとどめるつもりなのかは、依然として不明なままである。

クルスク・ヴォストチニ空港(ハリノ航空基地)
ロシア領クルスク州
緑色点線枠 - 防御強化された航空機用掩体壕
日付:2024.10.22
座標:51.7612068, 36.2850050
© Frontelligence Insight

残念ながら、攻撃許可がリークされ、公に報道されたことで、ウクライナ軍が相手に与えられると想定されるダメージの規模は限られることになる可能性が高い。上述したような建設の動きは、今のところ、もう一つ別の航空基地でのみ確認されているに過ぎないが、このような傾向が近いうちに他の航空基地にも広がっていくと、私たちのチームは予測している。

ATACMSと、それに加えてスカルプ/ストーム・シャドウを有効に用いる点で、ウクライナは今後、さまざまな課題に直面することになる。問題が生じる主たる要因は、一斉発射できる回数が制限されることと、被迎撃率がかなり高いことにある。このことは、攻撃が常に成功する見込みを小さくしている。

ATACMSミサイルは、射程と弾頭に関して、さまざまな種類がある。単一弾頭のミサイルもあれば、子弾頭を持つタイプもある。その結果、橋梁のようなある種の固いターゲットは、子弾頭タイプのミサイルでは効果的に破壊できない。そのため、ウクライナが狙うことができる目標の数は制限されることになるだろう。また、すべての種類のATACMSが300kmの射程を有しているわけではなく、固い防御構造物を効果的に貫通できるわけでもない。さらに、危険に巻き込まれないようにするため、このミサイルを最前線から発射することはできず、最前線からずっと離れた地点から発射せねばならない。

クルスク・ヴォストチニ空港(ハリノ航空基地)
ロシア領クルスク州
青色点線枠 - UAV"オリオン"
日付:2024.09.28
座標:51.748055, 36.310960
© Frontelligence Insight

また、別の重要な不確定要素も存在する。それは、ウクライナがロシアの石油精製施設やエネルギー・インフラを攻撃することが許可されることになるのかどうかという点だ。これが不確定要素なのは、かつて米国は、これら施設に対する軍事行動に反対したからだ。[ロシア側にとって]死活的に重要なインフラが、ウクライナによる攻撃が許される目標から外される可能性は高い。

ウクライナが今後、米国からATACMSを新たに供与されなくなるリスクが潜在的に存在することを踏まえると、攻撃目標の設定のみでなく、使用するタイミングについても、賢明に判断する必要が生じてくるだろう。防空戦力が極度に飽和している地域では、わずかな戦果をあげるだけでも、多くのミサイルの発射が必要になる可能性がある。このようなことをする余裕は、現状、ウクライナにはない。ゆえに、ATACMSが戦場における戦術的優位性をもたらすことは確かなことかもしれないが、過度な期待をするべきではない。ATACMSがもたらす影響によって、戦争の流れが劇的に変わる可能性は低く、クルスクに展開するロシア軍もしくは北朝鮮に結びつく軍隊が大損害を被る可能性も低い。そうではなく、ATACMSが使われることによって、戦術レベルの戦果が徐々に積み重なっていく結果になる可能性は高く、作戦レベルの、または戦略レベルの戦果が、迅速に、あるいは決定的なかたちで生じることには結びつかないものと思われる。


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