本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年9月28日付ウクライナ情勢評価報告の一部を日本語に翻訳したものである。なお、記事中の地図画像は、報告書原文に添付されているものを使用した。
日本語訳:
ここ直近の数日間、クプヤンシク〜スヴァトヴェ〜クレミンナ線におけるロシア軍の局地的攻勢作戦のペースが、低下している。クプヤンシク方面とリマン方面でのロシア軍地上攻撃に関するロシア・ウクライナ双方の当局者の報告が、ますます少なくなっている。このことが示しているのは、ウクライナ軍反攻作戦の結果、クプヤンシク〜スヴァトヴェ〜クレミンナ線からロシア軍戦力が引き抜かれており、この戦線でのロシア軍攻勢の遂行がかなり減退しているということだ。クプヤンシク〜スヴァトヴェ〜クレミンナ線でのロシア軍攻勢作戦は、この地区のウクライナ軍戦力を拘束し、戦線上のより緊要な地域からウクライナ軍戦力を引き離しておくことを目的としているという評価を、ISWは以前示した。ウクライナ国家警備隊総局応用計画局副局長ミコラ・ウルシャロヴヴィッチ大佐の9月28日の声明によると、ロシア軍は過去1週間、防衛作戦の実施と部隊増強に努め、その間、ウクライナ軍は攻勢作戦を実施し、具体的な場所は不明だが、ロシア軍を陣地から押し出したとのことだ。ウクライナ軍参謀本部の9月28日朝の状況報告(SITREP)では、クプヤンシク及びリマン方面でのロシア軍地上攻撃の報告はなく、28日夕刻のSITREPでは、ビロホリウカ付近のクレミンナ南方でロシア軍攻撃が1回だけあったことが報告された。地上攻撃が減少しているようにみえるなか、この方面でのロシア空軍の活動はますます活発になっている。そして、ロシア側情報筋は、ロシア軍がオスキル川にかかるウクライナ管理下の橋梁を攻撃していると絶えず主張している。この空襲には、オスキル川東方でのウクライナ軍攻勢作戦の脅威を阻止する目的があると思われる。
日本語訳:
ロシア軍の航空作戦はハルキウ州、ルハンシク州、ヘルソン州でますます活発になっており、ウクライナ軍が反攻作戦を進めているザポリージャ州西部において、あまり活発でなくなっているようにみえる。ヘルソン州西岸(右岸)の攻撃目標やクプヤンシク方面のウクライナ側後方地域の地上連絡線(GLOC)に対して、ここ1週間、ロシア軍は空襲の実施を増やしている。ウクライナ軍東部部隊集団報道官イリヤ・イェウラシュ大尉の9月28日付発表によると、ロシア軍のSu-35攻撃機とKa-52ヘリコプターの活動が、クプヤンシク及びリマン方面で増大しており、ロシア軍はこの方面で21回、空襲を実施したとのことだ。特にシヴェルシク(クレミンナ南方19km)付近とセレブリャンシケ森林地区(クレミンナ南方11km)への空襲が目立ったという。ヘルソン州軍政当局の報道官オレクサンドル・トロコンニコウの9月28日付発表によると、ヘルソン市及びヘルソン州西岸に対するロシア軍空襲の回数は、ここ3日間で3〜4倍ほど増えており、ロシア軍はこの地域の攻撃対象に向けて、50発を越える滑空型航空爆弾を投下したとのことだ。
ロシア軍航空機はザポリージャ州東部のウクライナ側後方地域への空襲を継続しているが、ロシア軍機が前線地帯でのウクライナ軍攻撃を撃退したという報告は、反攻の初期時と比べて、ロシア側報告内で定期的にみられるものではなくなりつつある。反攻初期時に、ロシア軍機、とりわけKa-52ヘリコプターがウクライナ軍攻撃を阻止することに大きな役割を担ったことを、ロシア側情報筋は主張していた。2023年8月中旬、ウクライナ軍はKa-52ヘリコプターを撃墜する能力を増大させた模様で、ロシア軍統帥部は機体とパイロットの損失を恐れて、ザポリージャ州西部への航空機投入を控えるようになった可能性がある。だが、ザポリージャ州西部におけるロシア軍機投入の減少は、ロシア軍の防衛能力を著しく損なうことにはなっていない。なぜなら、ロシア軍はウクライナ軍の進撃に対して攻撃ドローンの使用を増した模様で、それに加えて、依然としてロシア軍砲兵部隊がウクライナ軍攻撃の撃退において重要な役割を担っているからだ。ヘルソン州での航空活動を活発化させることによってロシア軍が何を達成しようとしているのか、また、クプヤンシク及びリマン方面でウクライナ軍等に対する空襲が増大していることが、この地区におけるロシア軍戦闘力の低下を埋め合わせることができるのかどうか。これらのことに関しては、今のところはっきりとしないままである。