本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月2日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ方面情勢とロシア軍の部隊運用上の瑕疵
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
アウジーウカ地区で陣地戦的交戦が続くなか、直近の4月2日、ロシア軍は同市周辺で前進した。3月31日公開の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がベルディチ[Berdychi]の西方で前進したことが分かる。4月1日公開の撮影地点特定可能な動画にも、ロシア軍がセメニウカ[Semenivka]という集落の南部区画で前進した様子が示されている。4月2日公開の別の動画で撮影地点特定可能なものにより、トネニケ[Tonenke](アウジーウカの西方)の西方でロシア軍が前進したことが分かっているが、この動画が以前に行われた3月30日のトネニケ西方でのロシア軍攻撃を撮影した古い動画なのか、この地区における、それより最近のロシア軍の進撃を撮影した動画なのかは不明である。ロシア軍事ブロガーの一部は、ロシア軍がトネニケからウマンシケ[Umanske](アウジーウカの西方、トネニケの西方)へ向かって、1km西進したと主張した。ロシア軍事ブロガーは、ベルディチ及びセメニウカの各周辺、ウマンシケ周辺、ヴォジャネ[Vodyane](アウジーウカから南西方向)及びペルヴォマイシケ[Pervomaiske](アウジーウカから南西方向)の各周辺で、ロシア軍がさらに前進したと主張しているけれども、ISWはこれらの主張を裏付ける映像資料を確認していない。ウクライナ・ロシア双方の情報筋によると、アウジーウカから北西方向のベルディチ及びセメニウカの各周辺、アウジーウカ西方のウマンシケ及びトネニケの各周辺、そして、アウジーウカから南西方向のペルヴォマイシケ及びネヴェリシケ[Nevelske]の各周辺において、陣地戦的交戦状態が続いたとのことだ。アウジーウカ方面に展開するある旅団で任務に就いているウクライナ軍将校の一人は、ロシア軍が時々、一度に二つの方向で戦術レベルの攻撃を仕掛けてくると述べている。この例として、ロシア軍がペルヴォマイシケ周辺で機械化部隊による攻撃を遂行した際に、それと並行して、最大で30人ほどのロシア軍歩兵がネヴェリシケの集落内で攻撃を仕掛けてきたことをあげている。なお、この攻撃が行われた日時は不明である。
ロシア軍「シュトルムZ」部隊のある教官の主張によると、3月30日のアウジーウカ西方における失敗に終わったロシア軍機械化部隊攻撃の際、ロシア軍は戦術的には何らかの成果をあげたが、作戦レベルの適切な連携は欠いていたとのことだ。戦車12両と歩兵戦闘車8両の損失という結果を招いた3月30日の攻撃は、複数日に及ぶ複数回の波状攻撃のなかで行われたと、この教官は主張している。ただし、この攻撃が複数日間行われたことが事実の場合、それを示すことになる3月30日以前にこの地区で破壊された、または損傷したロシア軍装備品を撮影した動画を、ISWは現状、確認していない。また、この教官の主張によると、攻撃第一波においてロシア軍は諸兵科連合部隊戦術をうまく運用でき、砲兵支援と航空支援を伴うかたちで、装甲車両を用いて歩兵を輸送したが、後続波の攻撃ではロシア軍砲兵の支援は減退し、その結果、ロシア軍車両の損失を招いたとのことだ。だが、ロシア軍攻撃の最終波の際は損失は生じなかったとも主張している。仮にロシア軍が装甲車両をもっと多く波状に前方投入することができていたならば、ロシア軍は最終的にウクライナ軍の打撃能力を「過負担状態」に追い込むことができただろうと、この教官は主張した。左記の主張は、ウクライナ軍の砲弾支給数が減少していることを踏まえてロシア軍がつけ込める好機のことを指しているのだと思われる。継続的に攻勢圧力をかけるには、十分な火力・対ドローン兵器・工兵の支援が必要で、それらがない場合、ロシア軍は今後も不釣り合いなほど大きな損失を被り続けることになるだろうし、戦術レベルの戦果をもっと大きな作戦レベルの突破に活かしていくこともできないままだろうと、このシュトルムZ部隊教官は指摘した。アウジーウカ方面で作戦行動中の旅団に配属されているウクライナ軍将校の一人も、トネニケ周辺におけるロシア軍の3月30日大規模攻撃に関してコメントしている。そのなかでウクライナ軍砲兵がまずロシア軍重装備を攻撃したことに言及しており、このことはシュトルムZ部隊教官のこの攻撃におけるロシア軍装甲車両に関する説明と一致している。