本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月18日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ロシア軍夏季攻勢は6月に発動とウクライナ情報部が指摘
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ウクライナ国防省情報総局(GUR)の局長キリロ・ブダーノウ中将によると、ウクライナ当局者がかねてから予期してきたロシア軍の攻勢遂行は2024年6月に発動されることになる可能性が高いとのことだ。ワシントン・ポスト紙の4月17日付記事のなかでブダーノウは、ロシアが2024年6月に「大」攻勢を開始し、ルハンシク・ドネツィク両州の完全制圧をその目標にするだろうと語った。また、ロシア軍は西側の意思決定に影響を及ぼす取り組みの一環として、2024年の一年間を通して、戦場で成果をあげることを試みていくだろうとも、ブダーノウは述べている。ブダーノウは以前、今後のロシア軍攻勢は2024年の5月末か6月初めに始まるだろうという予測を示していた。そして、ブダーノウが現在、予測を6月までに狭め、ロシア軍攻勢の目標となる可能性が高いものを特定している点は注目に値する。以前遂行されたロシア軍の大規模攻勢も、上述の予測と同様に、ルハンシク・ドネツィク両州の未占領地区の制圧を目指していた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンシキー大統領も含むウクライナ当局者は最近、ハルキウ市を目標としたロシア軍地上攻勢作戦がこれから行われる可能性があり、それが脅威であることを警告し続けている。また、ウクライナ当局者が繰り返し警鐘を鳴らしているのは、今後行われると思われるロシア軍の2024年夏季攻勢作戦に抵抗するには、米国からの安全保障支援が必ず必要だという点に関してだ。米国の安全保障支援の滞りに起因するウクライナの砲弾不足・防空能力不足は、規模は小さいが戦術レベルで戦果をあげることをロシア軍に許していると、ISWは以前から判断している。また、仮に米国がウクライナ支援をこれからも控えることになった場合、今後のロシア軍の攻撃によって、よりいっそう大きな戦果がロシア側にもたらされうる可能性があるという見解も、ISWは変えていない。他方、これまでウクライナ軍がはっきりと示してきたのは、適切な支援がなされた際に、ロシア軍の攻撃を撃退し、ロシア軍に甚大な人的損失・装備損失を加えることができたということだ。
4月17日にブダーノウは、今後のロシア軍攻勢作戦に対抗するためのウクライナ側の計画についても語った。その計画とは、ロシア国内にある軍事目標に対する爆撃を継続していくというものだ。ワシントン・ポスト紙のインタビューのなかでブダーノウが語っているのは、予想されるロシア軍2024年夏季攻勢への対応として、航空基地や指揮統制施設のようなロシア側重要軍事目標及び同国の国防産業基盤(DIB)への攻撃を、GURが計画しているということだ。ブダーノウによると、このような攻撃は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「戦争から(ロシア)国民を守る」ことができないことを示す意図でなされるとのことだ。ロシア国内を目標としたウクライナ軍の攻撃は、ロシアの戦争遂行を支える産業能力を低下させ、ロシア国内後方に配置・配備されたロシアの各種軍事能力を低下させるというウクライナ側作戦の一部として適切であると、ISWは以前から評価してきた。ロシア国内の軍事施設を狙って攻撃し、ロシアの石油精製能力・輸出能力を脅かし、ロシア軍防空網にかかる負担を増加させている最近のウクライナ軍攻撃は、数に限りのある、主に国産の兵器を用いた攻撃によって、一定程度の非対称的なインパクトを及ぼすことにウクライナが成功していることを、はっきりと示している。