以下は、戦争研究所(ISW)の9月19日付ウクライナ情勢評価報告から、その記述の一部を引用し、それに日本語訳をつけたものである。また、記事中で使用した画像で、報告書原文に添付されているもの以外は、画像下部に引用元URLを明記した。
日本語訳:
9月19日、ロシア政府はナゴルノ=カラバフに関する意向をすばやく示した。それによると、ロシアとアルメニアの間には以前から安全保障上の結びつきがあるにも関わらず、ロシア平和維持軍はナゴルノ=カラバフでのアゼルバイジャンの軍事行動に介入しないつもりであるとのことだ。アゼルバイジャン国防省は、アゼルバイジャン軍がナゴルノ=カラバフでの軍事行動を9月19日に開始したと発表した。クレムリンの報道官ドミトリー・ペスコフは、ロシア軍がアルメニアとアゼルバイジャン双方の当局者と「最も高いレベルで」連絡を取りあっていると主張した。ロシア外務省の報道官マリア・ザハロワは、流血の事態を止めるよう「すべての関係勢力」に呼びかける全般的な声明を発表し、ナゴルノ=カラバフのロシア平和維持部隊は定められた任務を完全に全うし続けていると主張して、2020年と2022年に結ばれたロシア・アルメニア・アゼルバイジャン3カ国合意を、平和への道程として引き合いに出した。ロシア下院国防委員会委員長のアンドレイ・カルタポロフは、ロシア平和維持部隊は直接的な脅威にさらされない限り、武器を使用する権限をもっていないと述べた。クレムリン寄りのある軍事ブロガーの主張によると、ロシア平和維持部隊には、ナゴルノ=カラバフにおける武力行使に関する手続き上の手順もしくは交戦規則がなく、その代わりとして、2020年ナゴルノ=カラバフ停戦協定に基づいて活動しているとのことだ。ロシア連邦安全保障会議副議長ドミトリー・メドヴェージェフとRT編集長でプロパガンダ言論人のマルガリータ・シモニャン(両者ともロシア政府内の国粋主義的で過激な発言者として有名)の両名は、アルメニアは、ロシアから離れて西側にすり寄ろうとした最近の試みの報いを受けていると主張したが、ロシア政府当局者の主だった人々は、このような図式を喧伝することはなく、戦闘終結を求める曖昧な発言を続けた。複数のロシア軍事ブロガーは、ナゴルノ=カラバフのロシア平和維持部隊の安全確保を支持する旨を表明した一方で、アルメニアとアゼルバイジャンへのロシアの影響力が弱まっていることを嘆いた。ウクライナでの戦争が控えているため、ロシア軍がナゴルノ=カラバフでの平和維持活動を優先して取り扱う可能性は低い。また、ナゴルノ=カラバフでのロシアの平和維持活動は最低限のものであり、ウクライナでのロシアの軍事作戦に影響を及ぼす可能性は低い。
日本語訳:
バフムート南方におけるロシア軍の甚大な損失に関する議論が続くなか、ロシア・ウクライナ双方の情報筋は、ウクライナ軍の戦闘協同態勢の優秀さ、ロシア軍以上の砲撃精度の高さと電子戦(EW)システムの強力さが、バフムート南方での最近のウクライナ軍進撃の要因になったと評価した。先ごろのクリシチーウカ(バフムート南東7km)解放戦に加わったウクライナ軍人の9月18日のコメントによると、高い士気、砲撃とドローン攻撃のための十分なリソース、ウクライナ軍部隊間の良好な一体性、きめ細かな偵察といったことが、ウクライナ軍の進撃を可能にしたとのことだ。ウクライナ軍指揮官の一人は、この地区の防衛に当たっていた様々なロシア軍部隊が、一体性の欠如に苦しんでいたと語った。クリシチーウカ周辺を守っていたのは、ロシア空挺軍(VDV)、スペツナズ、第3軍団に属する部隊であった。そして、ウクライナに展開するロシア軍部隊間の水平的統合に関して、ずっと続いている問題が、これら所属の異なるロシア軍部隊間の情報共有や協同戦闘行動の実施を妨げることになった可能性は高い。ある有名なロシア軍事ブロガーの主張によると、バフムート南方のウクライナ軍砲兵部隊の砲撃はますます正確かつ精密になっており、その結果、ウクライナ軍は自軍陣地に接近したロシア軍を安全に砲撃できるようになったとのことだ。この軍事ブロガーは、ウクライナ軍が航空偵察の面で優位性を保持しており、それはより強力なEWシステムについても同様だと主張した。
VDVと近しい関係にあるロシア軍事ブロガーの一人は、クリシチーウカ周辺の防衛に当たっていた第83親衛VDV旅団隷下部隊が現在、後方地区で戦力再建中であり、第31親衛VDV旅団隷下部隊がこの集落周辺での防衛任務を続けていることを認めた。複数のロシア軍事ブロガーの主張によると、第72自動車化狙撃旅団(第3軍団)隷下部隊は依然としてバフムート地区で行動しているが、ウクライナ軍がこの部隊を戦闘不能にしてしまった可能性は高いということだ。ウクライナ陸軍司令官オレクサンドル・シルシキーは9月18日に、ウクライナ軍が第72自動車化狙撃旅団・第31VDV旅団・第83旅団に属する部隊を、アンドリーウカとクリシチーウカの解放戦の間に、完全に撃破したと述べた。ISWがすでに示した評価分析ではあるが、ザポリージャ州西部でのウクライナ軍の進撃は、戦線のこの地区を守るロシア軍の戦力低下と対応している可能性があり、最近のバフムート南方におけるウクライナ軍の進撃も、同様にロシア軍の戦力低下に対応している可能性がある。