本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月12日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、すべてISW制作のもの(インタラクティヴ・マップの画像も含む)である。また、地図の一部は加工してある。
日本語訳:
10月10日、ロシア軍はドネツィク州アウジーウカ周辺で大規模かつ攻勢行動を始めた可能性が高く、その攻勢は今も続いている。ISWが確認できたところによると、ロシア軍は10月10日から、機甲攻撃集団、回転翼機、集中させた砲兵を用いて、アウジーウカの北西・西方・南方で同時進行的な攻撃を行っている。アウジーウカ市軍政当局の長であるウィタリー・バラバシは、同市周辺の10から12の地点でロシア軍が航空支援の伴った攻撃を行っているという見解を示した。ウクライナ人軍事ウォッチャーは、ロシア軍によるアウジーウカ攻勢作戦を「大規模攻撃」とみなしており、ロシア軍が例外的といえるほど多数の装甲車両を戦闘に投じたことに言及した。ロシア軍の装甲車両及び航空機の投入増大は、複数箇所での同時並行的地上攻撃が継続していることと相まって、ロシア軍が現在進めている攻勢の取り組みが、ISWの10月10・11日の評価よりも、範囲の点でも意図の点でもかなり大きなものであることを示している。ロシア軍のアウジーウカ周辺での攻撃は、ウクライナ軍戦力の拘束を単に意図した局地的な取り組みであるという評価判断を、ISWは現在見直しているところだ。なお、アウジーウカ方面におけるロシア側の正確な意図、そしてロシア軍の取り組みがどのような結果をもたらす可能性が高いのかという点に関して、ISWは現時点で評価判断を示すつもりはない。
日本語訳:
10月12日時点でロシア軍はアウジーウカ周辺で何ら大きな突破をなしえておらず、ロシア軍が近々にこの都市のウクライナ軍をその後方から遮断してしまう可能性は低い。ISWは、ロシア軍が10月10日以降、アウジーウカ周辺の各所で4.52平方kmの領土を奪取していると算定しており、また、ロシア軍がアウジーウカ南方で、O0562高速道路上[*注:オルリウカへ向かう道路を指しているのなら、O0542のことか?]のウクライナ側GLOC(地上連絡線)から3.32km離れた地点に、アウジーウカ北方では、このGLOCから5.25km離れた地点にいると判断している。そして、この距離以上の前進をロシア側が主張した場合、それは誇張しているものである可能性が高い。ロシア側情報筋は、ロシア軍がアウジーウカのウクライナ軍を“大釜[cauldron]”に入れよう[*注:包囲しよう]と試みていると主張したものの、現状の進撃が遅いことをすぐに認めた。ドネツク人民共和国(DNR)のトップであるデニス・プシリンは、この地区でロシア軍の一部が前進したにも関わらず、「この都市からの全面的な(ウクライナ軍の)脱出」を論じるのは時期尚早だと主張した。10月12日時点でロシア軍はアウジーウカの北西・南方・西方において限られた範囲で前進し、すぐさまウクライナ軍が包囲されるという脅威を同軍に与えていないにも関わらず、あるロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がすでにアウジーウカ方面で12km前進したと主張した。複数のロシア軍事ブロガーの主張によると、ロシア軍はアウジーウカ・コークス工場付近、同市北翼にある廃石捨場のあたりでさらに占領地を広げ、さらにアウジーウカ南方で鉄道線の一部を占拠し、同市周辺で前進したとのことだ。しかし、これらの主張を裏付けるものを、ISWは現時点で得ていない。ロシア側情報筋はまた、ロシア軍がオチェレティネ鉄道駅を破壊したとも主張した。ロシア側情報筋は、この駅がアウジーウカへ向かうウクライナ軍兵站輸送を支えていると主張している。
日本語訳:
撮影地点が特定できる動画によって、ロシア軍が少なくとも1個大隊戦術群(BTG)相当の装甲車両を、アウジーウカ周辺での攻勢作戦において失っている可能性が高いことが分かる。ある信頼できるX(Twitter)アカウントが10月12日に確認した内容によると、ウクライナ軍は10月10日以降、アウジーウカ付近で33両のロシア軍装甲車両と15両のロシア軍戦車を破壊したとのことだ。あるウクライナ軍予備役将校は、控えめな見積でもウクライナ軍が最低でも36両のロシア軍装甲車両を破壊したと推測でき、それには戦車、装甲兵員輸送車、輸送車両が含まれていると述べた。軍事ブロガーの一人はまた、アウジーウカ周辺での作戦において、双方ともに「甚大な損失」を被っていると主張した。10月11日公開の動画で撮影地点が特定できるものに、アウジーウカ付近において、隊列中のロシア軍装甲車両1両が水没した様子が映っているようで、10月11・12日公開の動画で撮影地点が特定できるものには、アウジーウカ付近でロシア側車両隊列を打撃するウクライナ軍が映っている。この動画が示しているのは、ロシア軍機甲部隊が過去の攻勢作戦から得た教訓を取り入れることができていない可能性があるということだ。過去の攻勢作戦というのは、2023年2月のヴフレダル周辺の作戦、もしくは2022年3月のキーウ周辺での作戦のことで、その際、ウクライナ軍は雑に進撃するロシア軍装甲車両の隊列を破壊している。ISWは先日、アウジーウカ周辺で作戦行動中のロシア軍は、ウクライナ南部の防衛作戦から学んだ教訓をうまく取り入れているというロシア軍事ブロガーの主張を報告した。だが、学習した教訓のロシア軍の実践度合いはまちまちであるだろうし、ロシア軍はアウジーウカ地区である程度の前進ができ、それは比較的有力な部隊によって可能になった可能性が高いけれども、ロシア軍に関する10月11日のISW評価は、過大なものであった可能性が高い。
日本語訳:
ウクライナ軍防衛部隊は比較的大きな損害をロシア軍に与え、アウジーウカ付近のロシア軍兵站を圧迫しており、その結果、ロシア軍の進撃ペースが鈍化している可能性が高い。あるロシア軍事ブロガーの主張によると、ロシア軍の進撃ペースは鈍化してしまい、ロシア軍は、初期時に多くの装備を損失してしまった現在、「質の高い」攻撃に重点を置いていると主張した。10月12日に公開された動画で、撮影地点が特定できるものに、ウクライナ軍がアウジーウカ北東方向に位置する、ヤシヌヴァタとホルリウカの間の橋を破壊した様子が映っている。あるロシア軍事ブロガーの主張によると、この橋の破壊は、アウジーウカ地区のロシア軍兵站に悪影響を及ぼすだろうとのことだ。また、この軍事ブロガーは、この橋が前線に近いため、ロシア軍は橋の補修を行おうとする際、困難に直面することになる可能性が高いとも主張した。