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【報告抄訳】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 1830 ET 05.08.2023 “ウクライナ軍によるタンカー攻撃”
以下は、ISW(戦争研究所)の2023年8月5日付ウクライナ情勢報告の一部(添付した文書画像箇所)を、日本語に訳したものになります。
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ウクライナ軍は8月4日、ロシアの石油タンカーを攻撃したが、これは黒海上で2日連続となる2回目のロシア艦船への海上ドローン攻撃となった。モスクワ・タイムズ紙は、このタンカーがケミカルタンカー“SIG”だと特定したが、この船舶はシリアのロシア軍にジェット燃料を運んでいることによって、現在、米国の制裁対象になっている。また、ウクライナ保安庁(SBU)内の情報源はウクライナ・メディア“Suspilne”に対して、SBUとウクライナ海軍がケルチ大橋付近において海上ドローンで船舶を攻撃したことを認めた。ロシア連邦海上河川運輸庁(Rosmorrechflot)の報告によると、SIGが攻撃されたのはケルチ大橋南方27km地点であるとのことだ。また、ロシア軍事ブロガーは、この攻撃によってロシア当局が橋の交通中断を余儀なくされたと主張した。ロシアのニュース要約メディア“Baza”の報道によると、海上ドローンによってSIGの機関室に2メートル×1メートルの穴が開いたという。またロシア国営メディアは、この事案による石油流出はなかったという見解を示した。あるロシア軍事ブロガーは、ウクライナ海上ドローンは意図的にSIGの機関室を狙ったと主張した。その理由として、船尾を狙うことで石油流出の可能性を最小限に抑えられる点を挙げ、また、船尾というのは最も高価で、最も修理が難しい機器が存在するところだという理由も挙げた。この船舶への攻撃の特徴と攻撃箇所から、ウクライナ軍が深刻な環境への悪影響を招くことなく船を使用不能にすることを意図したことが読みとれる。ウクライナ軍は、同国南部のロシア軍兵站能力を低下させる目的で、以前からケルチ大橋を攻撃目標にしてきた。そして、SIGへの攻撃は、ロシア軍への補給を担う艦船を使用不能にする、さらに広範な取り組みの一環である可能性が高い。また、ケルチ大橋付近という攻撃地点から、今回の攻撃が、主要なロシア側地上連絡線(GLOC)に沿ったロシア軍兵站を阻害する、もっと大きな取り組みの一環であったことも示している。
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ウクライナ当局者は船舶乗組員に対して、黒海に面するロシアの港付近にいる艦船を、ウクライナが攻撃する可能性があるという警告を発した。これは、ウクライナの主要港であるオデーサを、7月17日以降ロシアが継続的に攻撃していることへの抑制的な対応である。ウクライナの国家海洋河川運輸庁国家水路局は8月4日、船舶乗組員に対して、次の港湾内外停泊地周辺における「軍事的脅威」を表明する警告を投稿した。その港とはタマン港、アナパ港、ノヴォロシースク港、ゲレンジーク港、トゥアプセ港、ソチ港であり、警告の期間は今後、別途通知があるまでとのことだ。また、ウクライナ国防省は8月5日に、何らほかの文脈なく、「そっちがその手でくれば、こっちもその手でやり返す」という謎めいたツイートをした。これはおそらく7月17日以降のオデーサの港湾インフラに対する継続的なロシア軍攻撃と関係するものなのだろう。このウクライナ側からの警告は、商業活動と、黒海でロシアに向かう、もしくはロシアから出発する国際民間海運を抑制することになる可能性がある。
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ウクライナによる海上攻撃は、さらに大きな反攻作戦にとって好ましい条件をつくることを目的とした、慎重に計画された阻止攻撃作戦の一環である可能性が高い。1艇の海上ドローンが8月3日から4日の夜、ロシアのロプーチャ級揚陸艦オレネゴルスキー・ゴルニャクを攻撃した。8月5日、ウクライナ国防省情報総局(GUR)のアンドリー・ユソフ報道官は、オレネゴルスキー・ゴルニャクの損傷は極めて深刻なものだと述べ、この艦船は当分の間、運用不能になるだろうという見解を示した。英国国防省の報告によると、この艦艇を撮影した画像から30〜40度の傾きが分かり、そのことから、複数の水密区画がドローン攻撃によって破損した、または乗組員のダメージ・コントロール対応が効果的ではなかったことが分かるという。英国国防省は、オレネゴルスキー・ゴルニャクは通常、ロシア北方艦隊に配備されているが、過去のウクライナ軍攻撃によってケルチ大橋の交通遮断が起きたのち、ロシア本土と占領下クリミアをつなぐ軍民双方の輸送をここのところ担ってきたと報告している。以前のウクライナ軍による阻止作戦の取り組みは、主に地上にあるロシア軍事目標が中心だったが、ウクライナ軍は現在、この取り組みの一環として、海上の目標へとその取り組みの対象を広げつつある。ウクライナ当局者が繰り返し述べているのは、ロシア軍事目標に対する慎重に計画した阻止攻撃作戦の遂行は、今後のウクライナ軍反攻行動にとって好ましい条件を形成することを目的とした、ロシア軍兵站能力及び防衛能力の低下を企図したものだということだ。それゆえ、ウクライナ軍は、2022年のハルキウ・ヘルソン州での反攻前とその期間に実行したような阻止攻撃作戦を通して、今後の決定的な作戦の条件づくりを進めており、今や以前よりもっと奥に位置するロシア軍後方地域を攻撃し、それに海上目標を組み込んでいる。