見出し画像

【SNS英文投稿和訳】ロシア・ウクライナ戦争の今とこれから(マイケル・コフマン氏)

ロシア軍事専門家のマイケル・コフマン氏が、日本時間2025年1月5日午前0時台に、ロシア・ウクライナ戦争の情勢に関する分析を、XとBlueskayで連続投稿しています(連投の最初が上記リンク先)。

以下に続く文章は、この連続投稿の日本語訳です。なお、訳文中の[  ]内の記述は、訳者による補足になります。


日本語訳

[ウクライナでの]戦争と現在の情勢に関する長い連続投稿。2024年は最悪のシナリオこそ回避できたとはいえ、2022年春以降で最も厳しい時期であった。好ましい進展や明るい点もあったが、現在の流れはマイナス傾向といえる。

まずは簡単に振り返ってみよう。一年前の冬、状況は寒々しい模様だった。マンパワー不足、砲弾供与数量の低下といった問題にウクライナは対処しているところであった。そして、ようやく防御陣地網の構築に取り掛かったところでもあった。ロシアは主導権を握り、2024年にかけて物質面での優勢を有していた。

アウジーウカ[Avdiivka]の陥落があったとはいえ、ウクライナ側前線が崩壊する可能性は低いということが、夏までには明確になった。ロシアのハルキウ攻勢は不成功に終わり、ロシアはウクライナ側の弱みにつけ込むことができなかった。6~7月に行われたウクライナ側の動員がもたらす結果は、当初、好ましいものに思われた。

2024年は困難な一年になるかに思われた。だが、西側からの持続的な支援が前提となるけれども、冬になった際に戦線が安定する可能性があった。そして、ウクライナがマンパワー問題に対処できる可能性があった。ウクライナ側のマンパワー、防御陣地、砲弾の状況は改善しつつあった。

砲弾の致命的ともいえる不足は改善されたけれども、不幸なことに、動員における好ましい傾向と戦力再建という、より重要な事柄は持続しなかった。ウクライナ側の人的充足水準は低下の一途をたどり、とりわけ前線を保持する歩兵部隊で、それが目立った。

夏が終わって以降、動員ペースは著しく落ち込んだ。そして、ウクライナ軍はロシア軍に甚大な死傷者を生じさせてはいたけれども、ウクライナ軍も非常に多くの死傷者を出し続けており、無届離隊(AWOL)する兵士数の増加にも直面している。

西側製兵器をもっと求める発言が定期的になされる一方で、一部の部隊では、そのような西側製兵器を用いている要員を、単なる歩兵として投入するために、もともとの部隊から引き抜かざるを得なくなっていた。そして、一般的にいって、もっと多くの装備があることが、前線での兵力不足や、歩兵として任務に就きたくないという気持ちへの対処になる可能性は低い。

戦線が自壊してはいないが、7月から12月にかけて、ロシア軍が領土を占領するペースは速くなっている。一番問題となっている地域は、ポクロウシク[Pokrovsk]から南の方向だ。アウジーウカ陥落と、その後のヴフレダル[Vuhledar]陥落に続いて、ロシア軍はドネツィク州に位置する重要な諸拠点を、ゆっくりとだが奪いつつある。

ロシア軍は物質面で優位に立っているが、それを作戦レベルでの大突破に活かすことができていない。この理由の一端には、戦力の質的問題がある。ロシア軍の地上攻撃は前線に圧力を加えるというものであって、大規模な突破の成功に導く類のものではない。

ロシア軍の攻撃は多くの場合、装甲車両に搭乗しない歩兵の小集団によってなされており、そこに軽車両が伴う。また、少々規模の大きい機械化部隊攻撃もなされる。このようなかたちで攻撃を行うのは、装備損失を軽減するという意図もあるけれども、広範に展開する偵察型や攻撃型のUAS[無人航空機システム]による支援を受けた、入念に整えられた防御網を打ち破る能力が全般的にみて欠けているからでもある。

このような戦術によって、少しずつ占領地を広げている。より大きな規模の攻撃はロシア軍にとって、高コストなものになっている。ロシア軍にアウジーウカ戦の初期にみられた程度の装備損失を続ける余裕はない。だが、中隊規模の機械化部隊攻撃は、この秋の期間を通して目撃されている。

ロシアはスタンドオフ攻撃を実行できる空軍力の面での優勢を保持している。しかし、ウクライナにとっての中心的な課題は、動員、そして訓練の問題、さらに戦力管理に関するものであり、そこには戦力運用の仕方に関する問題も含まれる。問題は、不十分な兵力、あるいは兵力運用の仕方のいずれかにあるのではなく、その両方にある。

現在の動向に関する互いの相違点は何か?  ロシアは決定的な火力優勢を持てていない。戦術攻撃ドローンの分野では、均衡状態にある。一部の地域では、ウクライナがUASに関して優位に立っている。だが、過去6カ月間、ロシアの進撃は進んでいる。

12月に入って進捗のスローダウンは明らかになっているが、その主たる要因は天候にある。ロシア軍はポクロウシクから南の方向で前進し、この都市を側面から回り込もうとしている。クルスク州においてウクライナ軍は、一度は占領した突出部状地域の50%超を失っている。ロシア軍もしくは北朝鮮軍の人的損失は大きいとはいえ、ロシア軍はこのポケット地域に対して、引き続き圧力をかけている。

クルスク攻勢の結果、比較的質の高いロシア軍部隊の一部と航空戦力を、ロシアはここに送らざるを得なくなった。それはクルスクにおいてウクライナ軍に反撃を仕掛けるためである。しかし、クルスク攻勢が、この戦争の全体的な動向に変化を生み出すことはなかった。それどころか、ドネツィク州におけるロシア軍の前進は、8月以降、加速している。

ウクライナは前線に展開している最良かつ最も経験豊富な部隊の損失を補充するのではなく、新しい旅団をつくることに決めたが、これは、戦況と動員に関する問題を踏まえると、戦力マネージメントの面で、より頭を悩ませる決心の一つになった。

西側諸国はウクライナ軍14個旅団分の装備に関して、もしくは、その半分の旅団分でさえ、その供与の約束をしていなかった。前線に配置された経験豊富な部隊で生じた損失を補うために、男性兵士が何としても必要なときに、新しい旅団をつくって戦力を拡大したことは、誰の目から見ても明らかな代償を生じさせた。

新設の旅団は、経験不足であり、優良な指揮官を欠いており、全体的にみて戦闘能力不足である。それのみならず、これら旅団はまた、旅団として一体となって運用されていない。そうする代わりに、旅団隷下の各大隊は、ほかの部隊の増援として、それぞれがばらばらに分遣されている。

フランスで訓練を受けた第155旅団に関する醜聞は、上述の問題に関係する最悪の例だ。2023年にもみられたことだが、新編部隊は攻勢と防御のどちらの役割においても、適切な行動ができていない。経験を積んだり、団結力や自信を得たりするには、相当な時間がかかる。

結果的に、前線全体に各部隊はばらばらに投じられ、兵力不足の他部隊の隷下に置かれている。それは防衛任務遂行の断片化と一体性の欠如の着実な進行を招いている。このようなパッチワーク状態の戦力集団で前線を守らねばならないのだ。

基礎的訓練や指揮統制に関する、以前から続いている問題に、ウクライナは今からでも取り組んでいく必要がある。現在の当座しのぎのOSUV-OTU編制から、軍団編制に移行することは、長い間、未着手のままだ。既存旅団の一部はもうすでに師団規模になっているし、そうでなくても、師団規模に近づきつつある。

他方でウクライナ軍のUAS部隊は、戦力を増大させる基本的な要素として機能しており、地雷の遠隔散布を行ったり、ロシア側が接敵できる前にロシア軍部隊を削ったり、ロシア軍の能力を、前線から30km圏内という極めて重要な範囲に抑え込んでいる。

だが、技術的イノベーションや技術的適応、そして技術のさらなる組み込みといったことだけでは、根本的な課題に対処することの失敗を埋め合わせるのには不十分だ。ロシア軍の戦果は衝撃的なものにはみえないかもしれないが、このような戦いを持続させるために、ウクライナはマンパワー、訓練、戦力管理に関する問題に取り組んでいく必要がある。

前線付近の防空に関する状況は改善しつつあり、ロシア軍UASを前線に近づく前に撃墜するのに、FPV[一人称視点ドローン]迎撃機をうまく使うことが広まっている。だが、防空は依然として大きな問題であり続けており、とりわけ重要インフラの防衛に関して、それがいえる。

ロシア軍の長距離ドローン攻撃は夏以降、大幅に増加しており、春季と比較して数のうえで5~6倍になっている。このような攻撃には現在、かなりの割合でデコイやダミー機、主目的用ではないタイプのドローンが投入さえている。その目的は防空能力を消耗させることにある。

ウクライナ独自開発の長射程攻撃能力はかなり大きく成長しており、ロシア側のインフラを危険な状況に置いている。ドローンと地上発射型巡航ミサイルの生産は増しており、2025年には、西側製の攻撃兵器への依存は大きく低下することになるだろうし、西側製攻撃兵器を使うことに伴う制約に対処する必要も大きく減ることになるだろう。

当然ながら、ロシア側の損失は甚大である。しかし、ロシア軍の現在の募兵成功率をみると、今でも人的損失の補充ができており、兵員の交替も可能になっている。ロシアが支払う給与と特別手当の金額は天文学的規模で膨れ上がっており、2025年にかけて、どの程度の期間、このような支払いを維持できるのかという疑念が高まっている。最終的には、どれほどルーブルがあっても足りなくなるだろう。

現在の状況を肯定的にみようと思えば、そうもできる。つまり、ウクライナはロシア軍を消耗させている。ロシア軍の戦果は犠牲のわりに小さい。戦線の崩壊は起こっていない。そういう見方だ。このような見方が表面的には魅力的なものであることは分かるが、それは理解を深める以上に理解を曖昧にするものと私は考えている。

前線やキーウにおいて、この種の「楽観的な雰囲気」を見かけることはないだろう。ウクライナは現在、その領土を失っているのだ。冬の最も寒い時期はこれからだ。現在、勝利の方程式は明確ではなく、また、2025年に西側から提供されるリソースがどのようなものになるのかも、はっきりと分かっていない。

確認されている制約要因を考えると、ロシアもまた現在の烈度での戦闘遂行を続けていくことはできず、2025年下半期には強烈な向かい風に直面することになる。だが、現在の状況は、軌道修正を求めている。現在の動向をウクライナにとって肯定的にとらえることは、役に立たたないことのように思われる。

ロシア軍が前線で占領地を広げ続け、打撃能力を増強を続ける限り、ウクライナが長射程能力を増強することのみで、ロシアを交渉の場に引きずり出せる可能性は低い。時間を稼ぐために、また、モスクワに戦況の再評価を強要するために、前線の安定化が本質的に重要になる。

ウクライナ軍がこの冬に、クルスク作戦のようなかたちの新たな攻勢を試みる可能性がある。その意図は、世評をウクライナに好ましいほうに変えていくことと、取引材料として、もっと多くのロシア領土を得ることにある。このような攻勢は、戦術レベルの戦果をもたらすことができるかもしれないが、攻勢を行っていない地区で、大きな危機を招く結果になるだろう。

この戦争は終結からはほど遠く、軌道修正の選択肢は依然として残されている。今でもウクライナは戦線を安定化できるし、2025年にロシア側の犠牲を大きく増すこともできる。しかし、トランプ政権は弱いやり方を受け継ぐことになり、それは容易に修正できないだろう。さらにキーウとの間での共通した戦略もない。

ウクライナと西側は連携・協同する必要があり、利用可能なリソースに立脚し、キーウとその支援国・組織が取るべき具体的な段階に基づく現実的な計画に立脚した、一貫性のある方策を定める必要がある。

戦線を安定化させる方法、ロシア軍の攻勢を消耗させる方法、ウクライナに好ましい条件でロシアを交渉の場に引きずり出す方法に関するビジョンが必要になってくる。将来、新たな戦争が起こらないようにするための、ウクライナの安全を保障する方策と、同国が受けることが期待される今後の支援を、ウクライナに対して、明確に提示する必要もある。

いいなと思ったら応援しよう!