Russian Offensive Campaign Assessment, August 24, 2024, ISW ⬇️
米国がウクライナに課している長射程兵器使用制限の問題
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア領内後方の軍事目標に対するウクライナ軍の長距離打撃は、戦域全体でロシアの軍事能力を低下させるという点で死活的に重要であり、ウクライナに対する西側供与兵器の使用制限が解除されれば、ウクライナ軍はロシアの戦争遂行を裏支えしている広範な重要目標を攻撃できるようになる。報道によると、バイデン政権の国家安全保障関係のある高官は、ウクライナがロシア領内の目標を西側供与兵器で攻撃しても効果的でなく、それは、ロシア軍がウクライナ領に近い航空基地から軍用機を引き離し、再配備しているからだと語ったとのことだ。だが、この米国高官による評価分析は、ロシア軍が対ウクライナ軍事作戦を支援する目的で、航空基地以外のさまざまな施設のために、ロシア領内のかなり後方に位置する地域の聖域を、どれほど利用しているのかという点を無視している。8月23日付のポリティコ報道によると、バイデン政権の国家安全保障関係のある高官が、ロシア当局者は攻撃される目標物の一部を、西側供与のストーム・シャドウ及びATACMS[*注:陸軍戦術ミサイル・システム]ミサイルの射程外に移していると語り、ウクライナ軍はこれらのミサイルを限られた数しか供給されていないとも述べたとのことだ。また、匿名の米国政府当局者は、ロシア領空から滑空爆弾攻撃を遂行する航空機の90%を、ロシア軍がストーム・シャドウ及びATACMSミサイルの射程内の航空基地から移動させていると語ったことも報じられている。ロシア軍航空機が西側供与の長距離兵器の射程外に位置する航空基地に再配備されたことを裏付ける情報を、ISWは確認している。そして、戦域全体でロシア軍の航空活動が減退しているという報告は、ロシア軍が航空アセットの配備転換を進めているという報告と一致している。
そうであるとはいえ、ATACMS射程内のロシア軍航空基地からロシア軍航空アセットがほかに移されているということが、それ以外のロシア側軍事目標に対するATACMS使用の有効性を減じるものではない。米国がウクライナに供与しているATACMSの射程範囲内のロシア領に、少なくとも250箇所の軍事目標及び準軍事目標が存在していると、ISWは評価判断している。一方で米国は現在、ウクライナ軍がATACMSを使用して、ロシア領内の軍事目標を攻撃することを禁じており、GMLRS[*注:誘導型多連装ロケット・システム]装備の米国供与HIMARSを使用した攻撃のみが許可されている。その結果、ウクライナに許されているのは、ATACMSで攻撃可能な250箇所の目標のうち、最大で20箇所のみへの攻撃になっている。これら250箇所の目標の内、航空基地は17カ所しかない。そして、ロシア軍が航空アセットを配備転換したとされるのと同程度に、残りの233箇所の目標から、ロシア軍がアセットをほかへと移動させている可能性は低い。
米国政府当局者の発言は、ロシア軍の航空アセット配備転換に集中しており、仮に米国の禁止が解除された場合にウクライナ軍が攻撃可能な、ATACMSの射程内にある攻撃目標のほとんどの存在を、これまでのところ、おおむね無視している。ATACMSの射程内に位置する233箇所の軍事目標及び準軍事目標の多くは、大規模軍事基地、通信拠点、兵站センター、修理施設、燃料保管庫、弾薬保管庫、恒久的な司令部であり、これらは、そのアセットを迅速にほかへと移動させたり、その地点を迅速に強固にすることが、そうしようとしても極めて難しいか、不可能なものである。ロシア領内の後方地域から軍事アセットがほかに移されていることを示す公開情報による証拠情報を、ISWは収集できていない。このような施設から大規模にアセットをほかへと移動させることは、それを実施した場合、戦域全体のロシア軍兵站に対するかなり大きな負担になるだろうし、公開情報と米国当局者からの情報は、ロシア軍がこのような兵站上の大騒動に巻き込まれていることを示唆していない。もしロシア軍兵站へのこのような混乱が後方地域全域で起こったならば、現在進行中のロシア軍攻勢作戦の遂行は、全戦線で制約されることにもなるだろう。ATACMSの射程内に位置する、航空基地以外の233箇所のロシア側軍事目標及び準軍事目標は、ウクライナ領とクルスク州内で戦闘中のロシア軍部隊のための、指揮統制(C2)、インテリジェンス、偵察、兵站、修理支援任務を支えている。また、航空基地の一部から配備転換が限定的な規模で行われていることに基づいて、ロシア領内へのATACMS使用権限をウクライナに与えることに有効性がないという評価を示すことは、上述した航空基地以外の施設の存在を無視している。航空アセットの配備転換という限られた根拠をもとに、ロシア領内の目標を攻撃する許可をウクライナに与えることは無意味だとする評価分析は何であれ、ウクライナに対するロシアの戦争を支援する、航空関連以外の数百の施設を考慮していない点でみても不完全なものであり、それゆえ、このような評価分析は正確性に欠くといえる。
上述した施設から大規模にアセットをほかへと移すことと、アセットを適切に防護することのどちらも、本質的に困難であることを理解してもらう目的で、ISWは以下にこれら施設の一部の衛星画像を提示する。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[1]~[3]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文の日本語訳箇所(英文)
戦争研究所 ウクライナ戦況インタラクティブ地図