【SNS英文投稿和訳】バルト海におけるロシアの破壊工作活動(エミール・カステヘルミ氏)
フィンランドの軍事史家であり、OSINTアナリストでもあるエミール・カステヘルミ氏が、日本時間の2024年12月30日午前1時台に、XとBlueskyの双方のプラットフォーム上で、バルト海におけるロシア(によると思われる)破壊工作活動に関する見解を発表しています。
以下に続く文章は、カステヘルミ氏のこの投稿を日本語に翻訳したものです。なお、翻訳記事中で使用した画像は、カステヘルミ氏のSNS投稿に添付されているものの転載になります。
日本語訳
この一年間、フィンランド近辺の重要インフラに対する攻撃が、何回か行われてきた。バルト海における緊張を高める意志がロシア側にあるのは、ますます明白になっている。
これらの出来事がなぜ起こったのかを理解するためには、適切な文脈のなかにおいて把握する必要がある。
直近の事例として、貨物船「イーグルS」号が「エストリンク2」ケーブルを損傷したというものがある。調査は始まったばかりであり、それゆえ、フィンランドが公式に非難している相手はいない。とはいえ、繰り返されるパターンがあり、実際のところ、この事例の背後にいる国は一つしかありえない。つまり、ロシアだ。
偶発的に起きている出来事は何もない。現在の出来事の前、ロシアは注意深く考慮しながら、バルト海域におけるフィンランドとそれ以外のNATO諸国の重要インフラに対する攻撃を続けて行ってきた。敵対的行為の増加を、ロシアは意図的に進めている。
この一番最近の破壊工作の対象が、エストニアだった可能性は高い。というのも、同国は、ラトヴィアとリトアニアとともに、ロシアが供給する電力網から、まもなく自国を切り離す予定になっているからだ。単に一本のケーブルが破損することは危機を生じさせないが、私たちが目撃しているものは、初期の、試験的な段階に過ぎない可能性が高い。
現在の情勢を、「グレーゾーン」な段階と説明することもできる。敵対者は破壊工作、偽情報工作、ハイブリッド工作を遂行している最中にあり、これに続いて、外交的圧力を強力にかけてくる可能性があり、この圧力に軍事的圧力も加わることさえあるかもしれない。私の認識では、ロシアがこのような活動をやめるつもりでいるとは考えにくい。
現在、工作活動はさまざまな隠蔽作業を用いて実行されているが、工作活動から得られる利益が、どのアクターにとっての利益なのかに関して、不明瞭な点はまったくない。工作の目標にされた地域の政治家や政府関係者が、破壊工作やそれ以外の各種工作に対してどのように対応するのかを、ロシアは積極的に試しているところなのだ。
西側にとって問題になっているのは、決然とした力の発揮が必要とされる状況で、西側諸国がそれをためらう傾向にあるという点だ。ロシアに何かを理解させる唯一の方法は、力を示すことだけだ。何であれ弱さを示すことは、ロシアがもっと激しく攻撃を続けていくことを促す。それはこの一年に起きたことに示されている。
比喩的にいえば、ロシアは柔らかく弱い社会を剣で突き刺しており、それは剣が鋼鉄に突き当たるまで続く。フィンランドはこの一年間、破壊工作や移民の武器化、サイバー攻撃といった数多くの敵対的工作活動に耐えてきた。そして、今やついに、強力な対応を示すということで、何がしかの鋼鉄をあらわしているのだ。
この一週間、警察とフィンランド沿岸警備隊、フィンランド国防軍は他の政府機関と協力して、事件に関わった船舶の接収を行い、捜査を進め、海域の警戒活動を行ってきた。この地域の国で、以前にこのような対応をした国はなかった。
このようなフィンランド側の動きをロシアが予期していたかどうかは不明だ。たとえば、デンマークとスウェーデンの間の通信ケーブルに被害を与えた「イーペン3」の事例の際、スウェーデン当局が船に乗り込むまでに数週間かかり、その結果、該当の船舶は航海が継続できた。
西側諸国は厳密な法的根拠に基づいて行動する一方で、ロシアはこのような法や国際的な条約を、つけ入ることができる抜け穴とみなしている。この状況のため、政府関係者は準備態勢を高めておかねばならなくなり、深刻な敵対的活動を防ぐことが、政治的に難しくなる可能性があり、また、それが国内の混乱の要因になる可能性もある。
ロシアが今後もこのような工作活動を続けることへのハードルを、大きく高めていくような対策を見つけることが必要だ。十分に効果的な手段が見つからない場合、この問題は、加速的なスピードで大きくなり続けていくことになる。ロシアは止められるまで、やめないだろう。
今のところロシアは直接的な軍事行動を用いて、NATO諸国を試すようなことはしておらず、最も大きい被害も、軍事以外の手段を活用することで加えている。だが、私たちが除外できないシナリオには、たとえばフィランドやエストニアといった、ある特定のNATO加盟国に対して、ロシアが軍事力を用いようと試みるというものがある。
事態が悪化する可能性がある。NATOも個々の加盟国も限界線を設ける必要があり、強さを示し、強力な対抗措置の事例を設定しなければならない。これ以外のアプローチは、それがどのようなものであっても、エスカレーションの上昇を促し、バルト海地域全体に、安全保障上のリスクと経済的なリスクの双方をもたらすことにつながる。