本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年12月21日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナの不安定な「膠着状態」
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ウクライナにおけるロシア軍作戦が今まで、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの抱く最も大きな目標を達成できずにいることは、今後もずっと続くものではない。最大限の目標をプーチンの手に入れさせないままにしておくことを確実にできるのは、西側による継続的なウクライナ支援だけだ。12月20日に米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、「(ウクライナを)地図上から消し去り、ロシアに隷属させる」というプーチンにとっての根本的な目標を、プーチンはこれまでずっと達成できずにいると述べた。ロシア軍はウクライナを、プーチンが考える最大限の目標のもとに屈服させることができずにいる。その目標とは、「非ナチ化」という不明瞭な要求に基づいて、ウクライナ政府をクレムリンにとって受け入れられる政権に置き換えることであり、「非軍事化」という要求に基づいて、将来のクレムリンの要求に抵抗する能力をウクライナから奪い破壊することであり、また、ウクライナの「中立化」という要求に基づいて、ウクライナが自身で外交的・軍事的提携国を選ぶ権利を禁ずることである。クレムリンはまた、上述の要求に加えて、ウクライナ領土征服に関する不明瞭な目標を追い求めている。その領土征服の結果が、ルハンシク、ドネツィク、ザポリージャ、ヘルソン各州の一部領域の併合であり、ハルキウ州とミコライウ州のごく一部の占領である。そして、それらすべては、プーチンが抱く当初からの「根本的な」目標からの逸脱を示すものではなく、その目標の達成完了を示すものでもない。
ウクライナにおける最大限の目標は今でも変わっていないことを、プーチンは最近、再度強調している。そして、プーチンとクレムリンの高官たちによる拡張主義的言説の表明が増している。このような言説が示しているのは、プーチンの最大限の目標がウクライナにおけるロシアのさらなる領土征服を妨げるものではないということだ。プーチンの観点もしくは条件に基づくロシアの勝利が、ロシアのウクライナ完全併合とそれに伴うウクライナ国家の消滅を、必ずしも予期させるものではないのは確かだが、ロシアの勝利が、少なくとも現状のウクライナ国家の解体と、完全なロシア従属組織体として再生されるウクライナをもたらすことになるのは確実だ。そして、それを達成するために、ロシアによる完全なウクライナ軍事占領が要求されることになる可能性はかなり高い。
西側支援が崩壊してしまった場合、それがロシアの軍事力を撃退する能力の崩壊を、ウクライナにもたらす結果につながる可能性は高いと、ISWは判断している。また、現状の不安定なバランスは、西側が下す決定次第ですぐさまどちらかに傾いてしまうことがありうるため、現下のウクライナにおける陣地戦は安定した膠着状態ではないと、ISWは判断している。今も続き、これからも続くロシア軍の攻勢努力をはね返し、ウクライナ領土をさらに解放する力をウクライナ軍に与えているのは、西側による継続的な安全保障支援であり、これこそが現時点で取るべき行動方針である。そして、この行動によって、ウクライナにおけるプーチンの最大限の目標を、ロシアが達成できない状況を、永続化させることが可能になる。