本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月30日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で使用した画像は、すべてISW制作のウクライナ戦況地図(インタラクティヴ・マップ画像も含む)である。
アウジーウカ方面のロシア軍攻勢
日本語訳:
10月30日もロシア軍はアウジーウカ周辺での地上攻撃を続けた。また、同軍の前進も確認されている。10月30日投稿の撮影地点特定が可能な動画に、ロシア軍のTOS-1Aサーモバリック弾頭投射システムがノヴォセリウカ・ドルハ(アウジーウカ北東5km)で行動している様子が映っており、ロシア軍がこの集落を占領していることを裏付けている。複数のロシア軍事ブロガーの主張によると、ロシア軍はアウジーウカ南方の「フミク」小地区内で前進し、ベルディチ(アウジーウカ北西7km)付近で戦果をあげ、シェヴェルネ(アウジーウカ真西に5km)付近の採石場を占領したとのことだ。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコンスタンティン・マショヴェツは、ロシア軍がアウジーウカ地区で「戦術的な再編成」を進めていることを伝えたうえで、それに要する時間は1日以内で、再編成完了後、ロシア軍はアウジーウカへの攻撃を再開する可能性が高いと伝えた。また、マショヴェツは、この部隊集団に含まれる部隊が、主としてドネツク人民共和国(DNR)第1軍団と第41諸兵科連合軍(中央軍管区)に属する部隊であるという分析を繰り返し報じた。ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐は、ロシア軍がアウジーウカ周辺での装備損失を埋め合わせる努力を続けており、歩兵主体の激しい正面攻撃をウクライナ側陣地に仕掛ける準備を進めていると述べた。ウクライナ軍参謀本部の報告によると、アウジーウカ付近、ノヴォカリノヴェ(アウジーウカ北西10km)付近、トネンケ(アウジーウカ西方5km)付近、オピトネ(アウジーウカ南西3km)付近、ペルヴォマイシケ(アウジーウカ南西10km)付近でロシア軍が行った地上攻撃は失敗に終わり、これらの攻撃をウクライナ軍は撃退したとのことだ。
突撃部隊「シュトルムZ」を使い続けるロシア軍
日本語訳:
ロシア軍は、主に受刑者から集めた兵で構成されている「シュトルムZ」突撃部隊を、消耗の激しい歩兵主体の正面攻撃で使い続けている。10月30日、ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐は、ロシア軍がアウジーウカ周辺での「肉弾攻撃」(歩兵による正面攻撃を意味する隠語)実施の準備を進めており、今後の攻撃のために、装備が欠けた状態で「シュトルムZ」突撃部隊の訓練を行っていると語った。ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、「肉弾攻撃」とは、ウクライナ軍火点を制圧するのに必要な砲兵支援無しでロシア軍歩兵が攻撃を行うときを示す言葉だと主張した。この軍事ブロガーは、ロシア軍の2個連隊が横に並んで「肉弾攻撃」を行う際、それぞれの連隊の担当地区の間にある切れ目は、これまで同様に守られておらず、その箇所がウクライナ軍の反撃に対して相変わらず脆弱なままであると主張した。また、ほかのロシア軍事ブロガーの主張によると、アウジーウカ方面とバフムート南翼の「シュトルムZ」突撃分遣隊は、数日間、活発に活動したのちに撃破されることが多く、平均して40〜70%の兵員損失を被っているという。この軍事ブロガーは、ロシア軍が「シュトルムZ」部隊に満足な訓練を施していない点を批判し、「シュトルムZ」の指揮官が戦闘任務を割り当てられた際に行う提案を、高級将校が検討しようとしない点も批判した。この軍事ブロガーによると、「シュトルムZ」部隊は、偵察を実施する前か隣接部隊との連携が確立される前に、戦闘に投入されることが多く、砲兵支援がなく、負傷兵の後送に苦慮することが一般的で、その結果、より激しい損失を被ることになっているとのことだ。ここであげた両軍事ブロガーはともに、ロシア軍の攻撃や反撃を支える適切な砲兵支援の欠如に言及した。この両軍事ブロガーの片方は、このような諸要因によって、「シュトルムZ」部隊は重要な戦果をあげる前に「ゴミ屑」になってしまっていると指摘した。なお、「シュトルムZ」の有用性の低さについて、ISWはこれまでも頻繁に報告している。