Russian Offensive Campaign Assessment, November 17, 2024, ISW ⬇️
2024-25年の冬季戦でロシア軍が市街戦を優先する可能性
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍がドローンにおけるウクライナ側優勢を相殺し、装甲車両を自由に使えないと思われる状況を埋め合わせる取り組みを進めるなか、2024年から2025年にかけての冬季に同軍は、市街戦を行って、前線に位置するウクライナ側の大小の都市を占領することに重点を置いていく可能性が高い。テレグラム・チャンネルとソーシャル・メディア・プロジェクトとして有名な「ルイバリ」の創設者・責任者であり、ロシア政府に後援されている人物であるミハイル・ズヴィンチュクは、国外のロシア語話者向けチャンネル「RTVI」による11月16日のインタビューのなかで、2024~2025年冬季の間、ロシア軍が「開けた野外地域ではなく居住地域」における戦闘を重視しようとしていくと述べ、この冬にロシア軍が最優先で進撃しようとする小都市や都市の例として、トレツィク[Toretsk]、ポクロウシク[Pokrovsk]、クラホヴェ[Kurakhove]をあげた。ズヴィンチュクの主張によると、ロシア軍はポクロウシクを巡る戦いを始める準備を進めているとのことで、ロシア軍がセリドヴェ[Selydove]を掌握した今、同軍はポクロウシクに南側と南東側から接近するつもりであるということだ。ロシア政府に結びついた同国の情報空間のなかで、ズヴィンチュクは有力な情報発信者であって、ロシア軍の前線目標や作戦計画に関する内部情報に触れることができる立場にいる可能性がある。ロシア軍は最近、クプヤンシク[Kupyansk]東部とチャシウ・ヤル[Chasiv Yar]中心部へと進入しており、このような進撃は、2024~2025年冬季の攻勢作戦の準備として最前線の都市内に進入する連携のとれた取り組みの一環である可能性がある。クプヤンシク、もしくはチャシウ・ヤルが占領されることになった場合、戦線の地理的形状に及ぶ影響は作戦上、かなり大きくなり、クプヤンシクとチャシウ・ヤルの各方面でのウクライナ軍主要防衛拠点が脅かされることになると、ISWは以前から評価判断している。そして、これらの都市内にロシア軍が最近、進入したことで、両方面のウクライナ軍防衛網に、即座ではないものの、より大きなリスクが及ぶことになると思われる。
ズヴィンチュクの主張によると、ロシア軍は2024~2025年の冬季に戦闘能力を増強させることも目指すつもりであるとのことだ。その戦闘能力というのは、特にロシア軍のドローン能力のことであり、冬季における「ドローン戦争」の重要性がその引き金になっているという。ロシア軍がウクライナ軍に対して火砲での優勢を保持しているものの、ウクライナ軍のドローン運用の結果、同軍が最近、前に進めていないと、ズヴィンチュクは指摘した。もっと練度が高く、装備が整った部隊ならば、ウクライナ軍のドローン運用を克服して、より効果的に前進できるかもしれないという見解をズヴィンチュクは示している。ロシア国防省は中央集権化を進めて、ロシア側非正規ドローン部隊を統制しようとしている模様だと、ISWは以前から指摘している。そして、ズヴィンチュクの発言が、このような取り組みを指している可能性は高く、ロシア国防省が2024~2025年冬季の間に、この取り組みを強化するつもりでいる可能性があることを示唆していると考えられる。ウクライナ軍がドローンを用いることが、ロシア軍の機械化された機動を制約する点と、依然として続くウクライナ側のマンパワー・物資不足にロシア軍が完全につけ込むことを阻止する点で、かなり重要な役割を担っているという評価判断を、ISWは最近示した。歩兵が主体となる最近のロシア軍の戦闘様式にとって、市街戦は好ましいものであると、ロシア軍統帥部が判断している可能性がある。というのも、複数階からなる建築物は、開豁地にある樹木と比較して、ウクライナ側のドローン操縦者に及ぼす掩蔽効果を、ロシア軍歩兵によりいっそう与えられることになるからだ。ロシア軍統帥部はまた、非都市部の野外と小集落を前進することでのしかかるロシア軍装甲車両の使用コストと予備戦力に及ぶ損失が長期化することを避けるために、市街戦での攻勢のほうが好ましいとみなしているのかもしれない。市街戦を行うことによって、ウクライナ側のドローン優勢を相殺し、ロシア側の装甲車両損失を削減することが、前線に位置する町や都市で、消耗しながら徐々に前進することがもたらす膨大な人数のロシア側死傷者と、価値のうえで同等であると、ロシア軍統帥部が評価判断している可能性は高い。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[30]~[36]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文(英文)の日本語訳箇所
ウクライナ戦況地図(戦争研究所)