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【内容紹介&解説】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 1945 ET 11.08.2023 “ウクライナ軍攻勢に対するロシア軍の対応がさらけ出す脆弱点”
戦争研究所(ISW)の8月11日付ウクライナ情勢報告書によると、「ウクライナ軍は8月11日、戦線上の少なくとも3箇所で攻勢作戦を継続するなか、ザポリージャ州西部において戦術的に重要な意味をもつ前進ができた」とのことです。このウクライナ側の進撃に対してロシア側も対応しているのですが、この対応方法をみると、そこにロシア軍の弱みが読み取れるとISWは指摘しています。
8月11日のウクライナ軍攻勢状況
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撮影地点の特定が可能な動画によって、ウクライナ軍がロボチネ(オリヒウ南方19km)の北側郊外に到達したことが分かります。ただし、その到達地点を恒久的に確保できるのか、どの程度確保しているのかは、現状不明なままです。また、ウクライナ軍はロボチネ方面への攻撃を複数週、続けてきましたが、それはロシア軍防衛能力の低下を意図した作戦の一環であることをISWは指摘しています。さらに、ロシア軍がその防衛に相当注力してきたロボチネ郊外にまで到達できたというウクライナ軍の能力は、今回ウクライナ側が得た戦果はわずかとはいえ、依然としてかなりのものだと評価しています。
Ukrainian forces are on the doorstep of Robotyne.
— George Barros (@georgewbarros) August 11, 2023
Our team's unconfirmed hypothesis for a geolocation.
Sign possibly at: 47.45114307102832, 35.822942092717874@GeoConfirmed https://t.co/Z7W0IDcnbS pic.twitter.com/8EpNXr7kxp
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なお、ロボチネと同じく公開動画によって、ウクライナ軍がウロジャイネという集落内へ進入できたことも分かっています。この集落はドネツィク・ザポリージャ州境方面のウクライナ軍進撃軸上にあり、ヴェリカ・ノヴォシルカの南方9km地点に位置しています。また、複数のロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がロシア軍をウロジャイネ内まで押し込んだという見解を、8月10〜12日に示しています。
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ロシア軍前線部隊の横滑り的対応
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ロボチネでのウクライナ軍の進撃に対するロシア軍の対応に関して、ISWは次のように指摘します。
ウクライナ軍の反転攻勢は、ロシア軍にザポリージャ州西部を防衛する戦力の横展開的な再配置を強いているようにみえ、このことはウクライナ軍のこの地域での取り組みが、ロシア軍防衛能力を相当に低下させている可能性を示唆している。
この指摘の意味を考える前に、ロボチネ方面に投入されているロシア軍戦力を、ロシア側情報でみてみましょう。
ロシア軍事ブロガーとチェチェン共和国首長ラムザン・カディロフの情報によると、第7親衛空挺師団とチェチェン「ヴォストーク・アフマト」大隊がこの地域での戦闘に加わっているとのことです。またISWは、もともとこの地域の防衛にあたっていた戦力として第42自動車化狙撃師団(第58諸兵科連合軍隷下)の諸部隊をあげ、それを第22&第45独立親衛スペツナズ旅団の諸部隊、第810海軍歩兵旅団が支援していると述べています。つまり、第7親衛空挺師団とチェチェン大隊は新たに投入された部隊になります。
カディロフの大隊は最近までバフムート方面に展開しており、そこからロボチネへ送られたのでしょう。また、第7親衛空挺師団はもとはヘルソン州東岸に配置されていたのですが、カホウカ・ダム崩壊後にザポリージャ州方面に送られることになった部隊です。この師団隷下部隊に関しては、ザポリージャ州のロボチネ方面のみでなく、ヴェリカ・ノヴォシルカ方面(ドネツィク・ザポリージャ州境)のスタロマヨルシケに投入されていたというロシア側情報もあり、さらに、今でもヘルソン州での防衛任務にあたっている部隊もあるとのことです。
カディロフの大隊と第7親衛空挺師団は、もともとの防衛担当地域から引き抜かれてロボチネ方面に送られてきたわけですが、もとからここを担当していた第42自動車化狙撃師団はどのような状況なのでしょうか? ISWは第42師団隷下部隊のロボチネ方面から撤退を確認していないと指摘します。そのことから、チェチェン大隊と第7師団が、第42師団と交替するために投入されたわけではないことが分かります。さらに、ロシア軍が戦線後方に作戦予備をもっていないという可能性も示しています。つまり、ロシア軍は作戦予備がないため、他地区の前線を守っている部隊を、そこから引き抜かざるを得なくなっているのです。それは、ロシア軍の防衛能力の全般的な低下をもたらすことになります。
ウクライナ軍の好機が広がる可能性
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さて、ウクライナ・ロシア双方の軍は、重点となっているザポリージャ州西部〜ドネツィク州東部のみで戦っているわけではありません。ウクライナ軍はロシア軍の戦力を引き付ける目的でバフムート方面で攻勢を行っており、一方でロシア軍はウクライナ軍を引き付ける目的でクプヤンシク〜スヴァトヴェ地区において、限定的な反撃を仕掛けています。仮にロシア軍が南部防衛のためにバフムート方面から戦力を引き抜いた場合、その方面のロシア軍防衛力は弱まり、ウクライナ軍につけ入る隙を与えることになります。ロシア側が攻勢に出ているクプヤンシク〜スヴァトヴェ方面はどうでしょうか? 攻勢を仕掛けているということは、ロシア側戦力に余剰がある可能性がありますが、そこの戦力を他地区(例えば南部)に移すには攻勢作戦の進捗ペースを低下させて中止するまでの時間が必要で、それを早急に行えば、ウクライナ軍の反撃に直面するかもしれません。また、第7親衛空挺師団の部隊がヘルソン州東岸から移動したことが、この地域でのウクライナ軍の行動を以前よりも容易にしているようにもみえます。
一方でウクライナ軍は予備戦力を保持しており、ロシア軍のように他地区で交戦中の部隊から戦力を引き抜かなくてもよい状況にあります。この両軍の対照的な状況は何をもたらすのでしょうか? ISWは次にように指摘します。
それゆえウクライナ軍は、ウクライナ南部とバフムート地区でロシア軍防衛能力を低下させ続け、それと並行して、クプヤンシク〜スヴァトヴェ〜クレミンナ線沿いでのロシア軍の進撃を制約するのに必要となり得る戦力を維持できる可能性が高い。ロシア軍が横展開的な再配置を行うことによって、ウクライナ軍が防衛線突破に成功した場合、ロシア軍部隊が、事前準備した防御陣地への十分な支援のないままでの後退を迫られる可能性は増大するものと思われる。その結果、防衛にあたるロシア軍の能力はさらに低下し、ウクライナ軍の突破が決定的になる得る機会が生じることになる。
ロボチネとウロジャイネにおけるウクライナ軍の勝利は小さなものではありますが、ISWはその勝利に対するロシア軍の反応のなかに、ウクライナ側の好機をみています。