【SNS英文投稿和訳】ウクライナ軍が抱える制度的問題(ウクライナ軍元将校Tatarigami氏 | 日本時間2024.09.18 04:37投稿)
本記事は、上記リンク先のロシア・ウクライナ戦争に関連する内容のSNS英文投稿を日本語に翻訳したものです。
投稿者のTatarigami氏はウクライナ軍元将校です。また、戦争・紛争分析チーム「フロンテリジェンス・インサイト」を創設し、ウクライナ戦況等の分析を定期的に発信されている方でもあります。
なお、翻訳記事中の[ ]内の記述は、訳者による補足になります。
日本語訳
ロシア軍がポクロウシク戦線で前進し続けるなか、ウクライナ軍がその内部に以前からずっと抱えている制度的問題が、引き続きロシア軍の前進を助けている。ドンバス地方で指揮官の地位にいる下士官、下級・上級将校と数多くの対話を重ねたことに基づいて、私は今、この投稿を書いているのだが、その目的は、現場の人々が語る問題のなかで最も共通して、最も繰り返し語られるものを明確に示すことにある。そして、そうすることは、現場の将兵からの要望でもある。残念ながら、上級司令部は、このような懸念事項が内部から浮かび上がってきた際に、それらに対しておおむね無反応なままである。
1 司令部に伝わっていない戦闘即応状況
各部隊の実際の戦闘即応態勢と上級司令部の評価の間には、明らかな乖離がある。多くの場合、わずかな任務遂行能力しかもっていない部隊に、その能力をはるかに超えた任務が割り当てられている。たとえば、戦闘経験の無い新たに編成された旅団に、前線の極めて重要な、リスクの大きい地域の防衛を任している。なお、このような場所にロシア軍は、突破成功の可能性を生じさせるのに十分なほどの戦力を集めている。それと同時に、戦闘経験豊富で、装備も良好な旅団を、比較的危険度が低い地区に配置している。
このアンバランスさは、ロシア軍が戦線上の弱点を突き、そこにつけ込むことを許す結果になっている。それは部隊交替を行う際に顕著だ。ロシア軍がISR[情報収集・監視・偵察]能力を用いて、何がしかを追跡することができているのだ。他方、ウクライナ軍は多くの場合、誤った評価分析の結果として出現した脆弱な地域を安定化させるために、ほかの地区から大隊を急ぎ引き抜き、再配置している。このような行動が戦線安定化の一助になっているのは事実で、敵の突破を防ぐこともできてはいるものの、戦線のほかの地域を手薄なままにする結果となり、それによって、脆弱さの繰り返しは終わりなく続いている。
このような背景を踏まえると、軍高官には「完全兵力の60%を展開可能な1個中隊」にみえるものが、現実には、40歳代と50歳代のさまざまな兵士からなる疲れ果てた部隊であったり、すでに負傷した人や慢性的な病気を抱えた人を含むものであったり、最低限の訓練しか受けていない状態で投入された新兵の集団であったりしている可能性がある。そして、本当の戦闘能力が、充足時の30~40%程度にまで落ち込んでいる可能性がある。しかし、書類上、司令官たちは、戦闘能力が整った部隊だと考えている。
2 存在しない真実、報告されない本当のこと
上述した乖離の問題は、一つの疑問を生む。どうして将校たちは、自身の部隊が何らかの任務を遂行できないことを報告しないのだろうか? 答えは簡単だ。規定上、旅団長とその幕僚は自身の部隊の戦闘即応状況及び動員即応状況に関して、最終的に責任を負うことになっている。そして、ある任務を遂行できない部隊の存在を認めることは、往々にして旅団司令部の失敗とみなされる。ここから導かれる統帥部の解決策はシンプルなものだ。部隊の準備態勢を確保できない司令官がいれば、それをするためにほかの人物を代わりに任命する。そういうことだ。だが、部隊のリソースに関する状況や戦闘即応態勢に関する状況は、変わらず改善されていない。要するに、リソース不足で準備不足な部隊に、その部隊では対処できない任務の完遂を押し付けるつもりの人物を、司令官の地位にただ据えるだけだ。結果、任務は完遂できず、陣地は放棄され、防衛に失敗する。そして、不必要な死傷者を生む。このようなことは、Deep Stateの地図をみれば、一目瞭然のことだ。
3 募兵と訓練に関する制度的課題
新兵の質と人数は、相変わらず期待を下回っている。訓練センターのなかには、改善しているところもあるけれども、全般的な対応状況は、危険なほどに不十分なままだ。新たに実戦投入された新兵は、最前線の戦闘に対する用意ができておらず、その結果、各旅団は独自の訓練プログラムを開発して実施することを余儀なくされている。この状況を何とかするには、組織的な改革が必要だ。それには、退役兵の知見を、あるいは、負傷治療中の兵士の知見を活用して、新規入隊者を訓練・教導する組織の創設も含まれる。
4 ほとんどみられない説明責任
戦争3年目に入っても、ウクライナはいまだに「アフター・アクション・レビュー」(AAR)[*注:任務遂行後に第三者によってなされる行動改善のための検証作業]を完全に実施できておらず、AARの実施は、各将校がAARに主体的に取り組んだ場合のみにとどまっている。戦術レベルよりも上のレベルで、AARは用いられていない。
任務失敗の責任を負うのは、中級レベルの将校である場合が多く、一部には現場の兵士に責任がのしかかる場合さえある。かなりまれな例になるが、公のスキャンダルになったことを受けて、破局的な失敗ののちに将官レベルでの解任が起きることがあるが、そのような将軍たちは通常、責任を問われることなく、ほかの司令官の地位に再任命される。この結果、新鮮で、ずっと若く、もっとやる気のある将校が昇進する余地はほとんど残っていない。
化石のようなソヴィエト式ヒエラルキーがそもそもウクライナ軍指導層内に存在していることで変革ができず、その結果、これまで述べてきた問題が繰り返し発生している。
最後に伝えたいこと
結局のところ、これらの問題の根幹は、上層部の組織的失敗のなかにある。誤った意思決定、非効率的なリソース配分、不適切な募兵・訓練計画、そして、現場の実情把握がそもそもできていないということが、ウクライナ軍を蝕む病であり続けている。これらのことは、日々、前線で命を危険にさらしている兵士や将校が犯した失敗ではない。だが、司令部は多くの場合、これらの将兵に失敗の責任を押し付ける。しかし、このような失敗は、問題を認識できない人々や問題への対処計画を立案できない人々が招いた結果なのだ。
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