本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月22日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ロシア軍アウジーウカ方面攻勢の意図と展望
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
アウジーウカから北西の地点で、ロシア軍はウクライナ軍の戦線にもっと幅広い裂け目を開け、そこから突進しようとする意図をもっている模様だ。しかし、米国及びほかの西側諸国の支援が届くことによって、ロシア軍の突破前進能力は弱まっていく可能性が高い。アウジーウカから北西方向のベルディチ~ノヴォカリノヴェ線上に、ロシア軍はおおむね1個増強師団相当の戦力(中央軍管区[CMD]隷下の4個旅団が中心)を投入している。この戦力を用いて、ロシア軍は互いに補強しあう3方向からの進撃を追い求めている。その一つが、ベルディチから西方に向かう進撃である。もう一つは、オチェレティネに突入し、O0544(ケラミク~ミルノフラード)道路に沿って、この集落から西方に突進するものだ。そして、最後がノヴォカリノヴェへ向かって北進する動きである。これらの動きすべてが、ポクロウシク(アウジーウカ地域の西方)を通ってドネツィク州の西側州境に到達するというロシア軍の作戦レベルの最終目標を支えることを目的としている可能性は高い。アウジーウカの北方と北西方向に位置するこれら3箇所でのロシア軍攻勢作戦は、およそ7kmの長さの戦線上に小型の突出部を3つ形成することに成功した。しかし、これらの突出部のいずれもが、幅が狭く互いに孤立しており、さらなる地上攻勢を開始するための進発地点として有効に機能していない。このさらなる地上攻勢は、うまくいけばアウジーウカ西方の地域全体を広範囲に包囲できるだろう。ロシア軍の戦力構成とその密度、この地域の全般的な軍事的地理特性から推測できることは、ロシア軍が現在、主にCMDの戦力を使うことによって、3つの突出部すべてからの前進を組み合わせて、ベルディチ~ノヴォカリノヴェ線上により大きな裂け目をつくりたいと考えているということである。
だが、このより大きな突破口を開こうとするための時間が、ロシア軍に無制限にあるわけではない。欧州からの軍事支援はまもなくウクライナ軍の武器庫に到着し始めることになり、米国の補正予算案が同国上院を通過すれば、そこに再開される米国の軍事支援も加わることになる。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル上級代表の4月22日の発言によると、チェコが主導しているウクライナへの砲弾供与イニシアチブの第一弾供与分は、5月末から6月上旬までに、ウクライナ国内に届く予定であるとのことだ。ウクライナ軍が戦場におけるロシア軍との砲撃回数の比率を等しくできることは、ロシア軍から主導権を奪うために、また、たとえばアウジーウカ方面のような戦線上のいくつかの地区で目下続いているロシア軍の前進を遅らせるために、必要不可欠な要素になるだろう。ロシア軍も上述の動向にあわせるかたちで、できるだけ迅速に戦果固めをしようと、戦域のほかの地区において、戦術レベルの戦果を求めるペースを上げていこうとしている。具体的には、リマン方面やドネツィク市から西と南西の方向の地点における動きだ。ウクライナにさらなる西側支援が届くまでの時間が長くないことを、ロシア軍統帥部が認識している可能性は高く、ロシア側にとっての好機が終わってしまう前に、攻勢を行い、戦果を確保しようと試みている。これからの数週間で、ロシア軍がベルディチ~ノヴォカリノヴェ線上や戦域のそのほかの方面で、引き続き戦術レベルの戦果をあげていく可能性は高い。けれども、ウクライナ側のリソース不足というロシア側の好機が現在なくなりつつある状況は、ほとんどの場合で、ロシア軍が戦術的な進撃を、作戦レベルの大きな戦果に転換していくことを難しくしていく可能性が高い。とはいえ、部分的にはそれが可能な場合もある。まとめると、ウクライナが西側からの支援を受け取ることが、ロシア軍が現在準備中の今後の攻勢を、ウクライナ軍が迎え撃てるようにしていくことに結びつく可能性は高いということだ。