Russian Offensive Campaign Assessment, January 9, 2025, ISW ⬇️
戦争遂行の手法に関して不満を感じる一部のロシア高官たち
◆ 戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
報道によると、ロシアのエリート層と安全保障関係の高官は、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが中途半端な方法でウクライナとの全面戦争を遂行していることに物足りないという不満を感じ、プーチンが考える戦争終結までのスケジュールに関する懸念をますます高めているとのことだ。ロシア大統領府、下院、そのほかのさまざまな連邦政府及び地方政府のなかの情報源が、政府に批判的なロシア報道メディア「メドゥーザ」に対して、ロシアのエリート層はますます「期待感を失って」おり、また、戦争終結を待つことに「倦んできている」と語っている。また、西側の制裁がロシア経済に及ぼす長期的な影響についての懸念をますます大きくしていると述べたとのことだ。大統領府に近しい二つの情報源の指摘によると、ロシア政府には現在、戦後のロシアに関する明確な見通しがなく、もし政府が戦後ロシア社会のあり方を示す明確な言葉と、戦後社会に関する明確な政治的枠組を定義することができなければ、戦争終結は、大統領府にとって「致命的な事態」になりうるという。また、ロシア大統領府内のとある情報源がメドゥーザに語った話によると、ロシアのエリート層、とりわけ高官層は、戦争遂行に必要なマンパワーと物資が「十分に」ないことに対して、ますます不満を感じるようになっており、プーチンが「動員」を実施し、ロシアの社会と経済を戦時体制に完全に移行させる必要があると判断しているとのことだ。
安全保障関係のロシア高官たちは、ロシアが交渉による脱出口を求めるよりも、ウクライナでの戦争を激化させる必要があると判断している模様だ。メドゥーザの報道が示唆しているのは、ロシア軍がウクライナで被り続けている人的・物質的損失に見合うだけの大きな領土的戦果を、同軍はあげていないと、ロシアの安全保障当局者と軍当局者が評価判断している可能性があるということだ。ロシア軍統帥部はこれまで、戦術レベルでは重要だが作戦レベルではそうとはいえない規模の前進を、尋常でない人的損失と引き換えに達成することを甘受してきた。そして、プーチンの勝利の方程式は、ロシア軍がウクライナ領内でじわじわと前進し続ける限りにおいて、このような損失を前提として受け入れている。なお、2024年9~11月の3カ月間、ロシアは人的損失を増しつつも、奪取する領土も増やしていたが、2024年12月になると一日あたりの平均進撃ペースは鈍化し、おおむね9平方kmにまで落ち込んだ。それを受けて、ロシア軍統帥部が、自軍の進撃ペースが引き続き鈍化する場合、このような甚大な死傷者を出していくことに対して、プーチンよりも乗り気ではなくなっている可能性がある。だが、ロシアの安全保障当局者と軍当局者に、このような損失のために戦争を諦める用意ができている様子はなく、そうする代わりに、これらの当局者はロシアの戦争遂行努力を強化することを、プーチンに勧めているとされている。そして、その戦争遂行努力を強化する方法として、予備役のさらなる部分的招集と戦時体制への移行の正式決定を要求しているとのことで、おそらく戦場にマンパワーと物資を大量に流し込めることを期待しての要求だと思われる。ただし、非自発的な予備役の部分召集、あるいはロシア経済のさらなる軍事的動員を遂行する意志がプーチンにはないものと、ISWはこれまで同様に判断している。なぜなら、このような決断は、ロシア国民にかなり不人気なものになりかねず、それに加えて、ロシアの労働力不足と経済にさらなる負担をかけることにもなりかねないからだ。人的・経済的動員をさらに行うことを求めるロシアの安全保障当局及び軍当局内のグループが、ウクライナに展開するロシア軍のニーズを満たすためにより劇的な措置をとるようにプーチンを納得させることに成功するかどうかは、よく分からないままだ。だが、人的損失が積み重なり、自発的に軍に応募する人数のノルマを満たすことがますます難しくなることが引き金となり、近い将来、非自発的な部分的予備役招集をプーチンが実施する可能性がある。
ロシアの戦争遂行に関する問題の主たる原因であるとロシアのエリート層が診断しているとされるものは、原因として適切ではない。というのも、ロシアにとっての問題は、マンパワー不足にあるのではないからだ。そうではなく、戦場で高い技量をもって巧妙に戦うことをロシアが取り戻せていないということが、ロシア軍の前進ペースが比較的遅いことの主要因なのだ。ロシアのエリート層が人的動員をさらに進めることに重きを置いていると報じられていることが示しているのは、ロシアが戦場で成功を迅速に達成することを制約する一番の要因はマンパワー不足であって、前線のロシア軍の無能さ、ロシア軍司令官層の貧弱な作戦立案能力、ロシア軍を目下苦しめている甚大な装甲車両不足にあるのではないと、ロシアのエリート層がみなしている可能性が高いということだ。ここ最近、ロシア軍はポクロウシク[Pokrovsk]方面とクラホヴェ[Kurakhove]方面において、歩兵突撃によって、ゆっくりと少しずつ占領地を広げることができることを示しているが、機械化戦力を用いた迅速で巧妙な戦闘を行うことができないため、ロシア軍はこのような戦術的戦果を、ウクライナ領内のもっと奥への縦深進撃へと変えていくことができずにいる。
ロシア軍もウクライナ軍も、ますます透明性の高まる戦場に、相手を上回る巧妙な戦闘を再び導入することに苦戦し続けている。また、ロシアによる全面侵略開始後の2022年初めの数カ月間を特徴づけている機械化部隊を用いた迅速で巧妙な軍事行動のようなものを遂行したいと、ロシア軍が考えているならば、同軍はまた、前線指揮官のための訓練を行う能力と軍事任務立案能力に関する致命的な欠落にも取り組まなければならないだろう。ウクライナ軍当局者の最近の報告によると、ロシア軍はポクロウシクとクラホヴェの両方面において、これまで以上に少ない数の装甲車両しか投入しておらず、極度に消耗的な歩兵主体の地上攻撃のほうを好んでいるということだ。なお、ポクロウシク方面とクラホヴェ方面というのは、最も激しく戦われている作戦方面であり、ロシアが最も戦力を集中させている場所でもある。ロシア軍は甚大かつ持続不可能な装甲車両の損失を被り続けており、去年の一年間、前線において、ウクライナ軍ドローンからこれらの車両を防護することに苦戦してきた。その結果、ロシア軍は装甲車両を投入して機械化部隊攻撃を実施する場所と時期を限定したり、そのような場所と時期に優先度をつけることを迫られるようになった。前線上の極めて重要な地域での歩兵攻撃に、かなり多くのさらなる人的資源を投入した場合、ロシア軍は少なくとも現在の進撃ペースを持続できる可能性が高く、もしかすると、現在のペースをわずかに加速させられる可能性が高まるかもしれない。しかし、そのペースというのは、ロシア軍歩兵が徒歩で進撃できる速さに過ぎず、迅速な領土奪取や縦深への突入にはほど遠く、また、ロシアのエリート層が望んでいる可能性の高い戦場での大勝利にもほど遠いものだ。
ロシアのエリート層が、おそらくはプーチン自身も、近い将来における交渉による平和的な戦争の解決に関心のないことを、メドゥーザ報道は示している。いくつかの情報源がメドゥーザに語った話によると、想定上の将来の交渉において、領土的要求(ロシアが現在、占領していない地域も含む、ドネツィク州・ルハンシク州・へルソン州・ザポリッジャ州の行政区画内全土のロシア支配を公式に認めること)をプーチンが達成できるかどうかに関して、ロシアのエリート層は懸念しているとのことで、ロシアのエリート層は現在、戦後ロシアの「勝利のイメージ」を形成することに注力しているとのことだ。戦争をもっと激化させることを望むとされるエリート層の気持ちと連動するロシアの勝利への注力が示しているのは、プーチンがロシア側提案に従うという条件でのみの交渉を望み、この戦争の正当性をロシア側社会に示すことができる重要な大勝利の達成を望んでいることを、ロシアのエリート層が支持しているということだ。ロシアが真摯な交渉に関わるつもりがない、あるいは、ロシアがウクライナの全面降伏にも等しい条件以外で、意味のある和平交渉に参加する意欲をもたないということを、プーチンとロシア政府高官は繰り返し発信している。そして、ロシアのエリート層が有意義な和平交渉への参加よりも、プーチンの要望のほうを、今後も引き続き支持していく可能性は極めて高い。
※ISWが参照している情報源を確認したい場合は、報告書原文の後注[9]~[19]に記載されたURLにアクセスしてください。
◆ 報告書原文(英文)の日本語訳箇所