本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月26日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、ISW制作の地図である。また、本記事のサムネイル画像は、ウクライナ国防省ArmyInformの記事に掲載されている写真を使用した。
アウジーウカでの損失がロシア軍に及ぼす影響
日本語訳:
アウジーウカ周辺における甚大なロシア軍の装備損失は、ロシア軍の攻勢遂行能力を長期間、損なうことになる可能性が大きい。10月26日にウクライナ軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐は、10月19日以降、ロシア軍がアウジーウカ及びマリインカ(ドネツィク市南西)の周辺で、5,000人の戦死者を出し、400両の装甲車両を失ったと述べた。衛星画像によって、ロシア軍が10月10日から20日にかけてアウジーウカ周辺で、装甲戦闘車両と戦車を中心に少なくとも109両の軍用車両を失ったことが裏付けられている。あるウクライナ軍予備役将校の指摘によると、ロシア軍はアウジーウカ周辺における装甲車両の投入を以前よりも控えている模様だとのことだが、ロシア軍が10月10日の第一期機械化部隊攻撃と、それに続く10月19・20日の大規模な第二期機械化部隊攻撃との間に再編成を行ったのと同様に、同軍は現在、新たな大規模機械化部隊攻撃のために再編成を行っている最中である可能性もある。ロシア軍統帥部は、アウジーウカ戦線へとさらに戦力を注入しているところで、その目的は、失われた兵力の埋め合わせと、現在遂行中の攻勢をロシア軍が持続できるようにするため、その能力を保たせることにある。
だが、ロシア軍統帥部は今後、装備損失を埋め合わせるのに苦慮することになる可能性が高く、特に装甲車両に関してそれがいえるだろう。ウクライナへの全面侵攻の最初の年、ロシア軍の装備損失と装備欠乏が大きくなったことで、2023年冬季から春季にかけてのロシア軍攻勢の期間に効果的な機械化機動戦を遂行するロシア軍の能力はかなり大きく制約された。そのことは、2023年1月と2月にドネツィク州ヴフレダル付近で行われた、協調の取れていない機械化部隊攻撃でのさらなる損失の一因になった。ヴフレダル周辺での甚大な損失は、ロシア軍統帥部が2023年冬春期後半にウクライナの他地区で機械化部隊による攻撃を積極的に持続させていくことを妨げた可能性が高い。アウジーウカ周辺におけるロシア軍の最近の装備損失は、ヴフレダル周辺における以前の装備損失と比べて、かなり大きいものであるようにみえる。さらに甚大な装備損失が生じるかもしれないという予想が、ロシア軍統帥部によるアウジーウカ周辺での機械化部隊による新たな大規模な攻撃の発動を、抑止することになるかどうかは、今のところ不明だ。ロシアは装備不足への取り組みとして、国防産業基盤(DIB)のさまざまな領域の動員を段階的に進めているが、ウクライナで累積した装備損失を埋め合わせるに足るほどの規模で、そうすることができていない。アウジーウカ周辺における最近のロシア軍の損失は、さらに顕著な装備欠乏と、低下した機械化機動戦能力への取り組みとしてロシア軍が進めてきたことからの明らかな退歩の両方につながっていく可能性が高い。
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